SatoYuki-Yuki Sato's Law Blog-

Partner, Attorney at Law admitted in Japan and New York. My areas of practice include M&A, corporate laws, investment funds as well as capital markets.

スキャンポファーマ合同会社による株式会社アールテック・ウエノの完全子会社化

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旬刊経理情報9月10日号(中央経済社)に、当職が共著にて執筆、寄稿しました「栄光HD買収の事例にみる 2段階TOBの法務・税務上の留意点」が掲載されていますので、是非ご覧ください。

さて、先日、スキャンポファーマ合同会社(スキャンポ)による株式会社アールテック・ウエノ(アールテック)の完全子会社化のプレスリリースが出ていましたので、簡単に取り上げたいと思います。「特別関係者」からTOBによらずに株式を買い付けることによって2段階TOBを回避している点、会社法改正後に創設された株式売渡請求権が利用される予定である点が、本件のめずらしい点になっているかと思います。スキャンポファーマは、非びらん性胃食道逆流症の新薬を開発中であり、現在Phase IIの臨床試験中のようですね。

スキームの概略

スキームはざっくり言うと以下の通りとなります。

1.スキャンポの祖父母会社であるSucampo Pharmaceuticals, Inc.(SPI)がアールテックの筆頭株主及び主要株主から市場外で公開買付けによらずアールテック株を取得(以下、取得した株式を「TOB外取得株式」といいます。)

スキャンポがTOB外取得株式以外のアールテックの普通株及び新株予約権に対して公開買付け

3.スキャンポがSPIからTOB外取得株式を取得

4.アールテックの総株主の議決権の 90%以上に至った場合、会社法第 179 条に基づき、アールテックの株主(SPI、スキャンポ及びアールテックを除きます。)の全員に対し、その有するアールテックの普通株式 の全部を売り渡すことを請求(以下「株式売渡請求」といいます。)するとともに、併せて、アールテックの新株予約権者(スキャンポ及びアールテックを除きます。)の全員に対し、その有する新株予約権の全部を売り渡すことを請求し完全子会社

何故公開買付けによらずアールテックの筆頭株主等から市場外で取得することができるのか

「スキャンポとの業務提携契約の締結及びスキャンポファーマ合同会社による当社株式及び新株予約権に対する公開買付け等の実施及び応募の推奨に関するお知らせ」(http://www.rtechueno.com/investor/press/150826b_pr.pdf)(プレスリリース)によれば、「SPI が、1年以上継続してその形式的基準による特別関係者である上野氏、久能氏及び S&R Technology から当社普通株式(所有割合の合計: 43.64%)を、公開買付けによらない市場外取引により取得」と記載しており、筆頭株主及び主要株主がSPIの形式的基準による特別関係者に該当するため公開買付けによらない市場外取引で株式を取得するとのことです。形式的基準による特別関係者とは、買付者が法人等である場合、①買付者の役員、②買付者が特別資本関係を有する法人等、③買付者に対して特別資本関係を有する個人並びに法人等及びその役員(金融商品取引法施行令第9条第2項参照)を意味します。今回は、主要株主である上野氏及び久能氏は、SPIかS&R Technology Holdings, LLC(S&R)の役員と思われます。また、S&Rは、SPIの議決権付株式の 44.4%を保有していることから、③のSPIに対して「特別資本関係を有する」「法人等」に該当するものと考えられます。なお、特別資本関係とは、ある者が他の法人等の総議決権の20%以上に係る株式又は出資を自己又は他人の名義をもって所有する関係をいいます。なお、S&RもSPIも日本の会社法に基づく株式会社や合同会社ではなく米国企業という点が特殊ですが、外国法に基づく資本関係を日本の金商法上どう評価するかという点は解釈の余地があるものと思われますが、今回の特別資本関係があるという判断は妥当だと思われます。

TOBの対象外とする実質的な理由

プレスリリースによれば、S&Rや上野氏及び久能氏は、「当社普通株式の売手であると同時に実質的な買手でもあり、当社の買収のシナジーを買手として享受できる立場にあるため、当社のその他の株主の利益に配慮するべく、両者の買取価格に差を設けるため」とのことです。確かに、理由としては、一理ある気がしますが、S&Rは、SPIの44.4%しか保有していないため、S&Rや上野氏及び久能氏も買収のシナジーを全て享受できる立場ではないですし、S&Rや上野氏及び久能氏にプレミアを支払わない分公開買付け価格が高くなるという理由もない気はします。ただ、今回の一連の取引は、S&Rや上野氏及び久能氏という創業者一族の下に、SPIというNASDAQ上場会社とアールテックという日本の上場会社が並列に並んでいる資本関係だったものを、SPIを頂点とし、アールテックをその傘下にするという資本関係に変更するためのもの(以前のキューピー・アオハタやエイブル・週刊賃貸のような創業者一族の資本のもとに複数の上場企業がある資本関係を解消するスキームとパラレルに考えられる気がします。)であり、創業者一族がプレミアを取得するいわれはないという価値判断自体は正しいのではないかという気がします。

また、「両者の買取価格に差を設けるため」というプレスリリースの指摘だけを読むと、大株主向けの公開買付けと少数株主向けの公開買付けを2回に分けて行ういわゆる2段階TOBの事例を想起させますが、今回は上記のとおり公開買付けをしないでも市場外で株式を取得できるという特殊な事例のため2段階TOBにはなっていません。公開買付け等ののち、スキャンポがSPIから形式的基準による特別関係者の持っていた株式を譲り受ける形になっていますが、スキャンポからすると、S&Rは形式的基準による特別関係者には該当しないと思われることからすると、スキャンポがS&Rからアールテック株を市場外で取得するためには公開買付けを行う必要があったのを回避するため一度SPIを経由したとも言えます(スキャンポが2段階TOBを行うことも十分あり得る選択肢だったと言えそうです。)。

 キャッシュアウトの仕上げ

会社法改正によって新たに出来た株式売渡請求及び新株予約権売渡請求をスクイーズアウトのファーストシナリオに持ってきている点、又、株式売渡請求及び新株予約権売渡請求の条件(90%の取得)が充足しない場合、株式併合というこれまた今回の会社法改正によって少数株主保護の手続きが他のスクイーズアウトの手段とパラレルに組み込まれることによって実務上利用可能となった手段によってスクイーズアウトをしようという(ちょっと実験的な意味合いもある)ところが、実務家の1人としては興味深いところです。

 

 

5月から始まった怒涛のマイナンバーセミナーがひと段落しました。

 

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5月から始まった怒涛のマイナンバーセミナーがひと段落しました。今春から、各種法人・団体から次々とマイナンバーのセミナーのお話をいただき、新情報を都度付け加えつつ、お話させていただきました。 

先週は、社労士さん100人の前でお話させていただいたのですが、10月頭に引っ越し予定の人はどうなるの?とか、マイナンバーは教えてもらったものの本人確認資料(身元確認資料)をもらえない場合はマイナンバーを書かなくていいの?とか、従業員の人から扶養親族にはどう伝えてもらったらいいの?といった点は、みなさんメモメモ…と鉛筆が動いていました。 

業務ソフトの会社さんからお話があるようなセミナーもあり、実際どのような態様でマイナンバーが保管されているか確認できるいい機会にもなりました。

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リバース・モリス・トラスト方式によるM&A(コティによるP&G美容部門の取得)

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コティがP&Gの美容部門を、リバース・モリス・トラスト方式を用いて125億ドルで買収したとのニュースがありました(http://www.businesswire.com/news/home/20150715005713/ja/#.VasjruLtmkp)。リバース・モリス・トラストとは、親会社が子会社を税務メリットのある形で売却する際に用いられる米国におけるM&Aの手法の一つです。リバース・モリス・トラストの手順としては以下の通りとなります。

①親会社は、売却しようとする子会社の株式を親会社の株主に分配します。米国の内国歳入法では、このような行為は一定の条件を充足すれば、親会社と親会社の株主のいずれにも税金がかからないそうです。

②前号で親会社と同一の株主構成となった旧子会社を合併相手先会社と合併します。内国歳入法によれば、旧子会社が(どちらが存続会社かはともかく)合併後存続会社の買収者と判断されれば、この行為も税金がかからないそうです。合併後存続会社の過半数の議決権を旧子会社側の株主が保有していれば「買収者」と判断されるようです。

今回のDealでは、P&Gの美容部門をP&G本体から分離します。P&G株主は、P&G美容部門から構成される新設会社の株式を「スピン・オフ」又は「スプリット・オフ」によって取得します。「スピン・オフ」や「スプリット・オフ」は、米国の税法上の概念ですので詳しくは省略しますが、日本法で考えると、子会社株式の現物配当か、仮に会社分割で親会社の事業の一部を子会社化した時に子会社株式を親会社株主に引き渡す人的分割みたいなものだと考えることができます。

本件では、上記で示したリバース・モリス・トラストのモデルを応用しており、新設会社の株式をP&Gの株主に引き渡した後、直ちに新設会社とコティの子会社とが合併し、新設会社の株主(P&Gの株主でもある)は、合併対価としてコティの株式(コティの子会社の株式ではなく)を取得することになります。これは、いわゆる三角合併で、日本の合併制度と違って必ずしも買収対象会社の株主に対して合併対価を買収者が払う必要がない点が特徴です。日本の感覚だと、コティ子会社が新設会社を吸収合併するので、コティ子会社が、自身の株式又はコティから取得したコティ株式などを新設会社の株主に対して引き渡すのが自然な気がしますが、制度の違いが大きく現れるところですね。合併によるコティの株式発行は、新設会社の株主が合併会社の完全希薄化後全発行済み株式の52%を受け取るようになっており、上記②で示したとおり、P&Gの新設会社がコティを買収した形になるように設計されています。リバース・モリス・トラスト方式を用いる場合、株主が合併後に過半数の議決権を保有することができるよう、同じかより小さい規模の企業を合併相手とするのが一般的です。

マイナンバー法の本を執筆しました。

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こんばんは。本日は、ご報告&宣伝を。

6月中旬、私が執筆者の一人となっているマイナンバー法関連の書籍が、発刊されます!マイナンバー法関連の書籍は昨年末頃からかなり出ていますが、本書は、弁護士、税理士などの専門家に加えて、セキュリティソフト会社の方が書いている点がちょっと面白いところかと思います。

昨年後半から報道~出版物なども結構出てきていますし、3月からは上戸彩ちゃんとマイナちゃんのテレビCMが放映されていて、関心が高まっていますね。

税、社会保障、災害対策の場面で行政機関がマイナンバーを利用することになり(例えば、源泉徴収票や支払調書にマイナンバーを記入する等)、そのための補助的な立場として、民間事業者も、マイナンバーを収集、利用、保管等することになるわけです。

マイナンバー対応の何が大変かというと、やはり安全管理措置のレベルが結構高いということですね。給与計算のアウトソーシングを受けている会社や、会計ソフトウェアについてみても、まだ話を聞くと対応が不十分じゃないかなと思われるものもあります。外注するにしても、マイナンバー法の規制を受ける「個人番号関係事務実施者」になるのは、委託元なわけですので、それなりの対応が必要になります。

ちなみに、先日は、公認会計士協会東京会の方で講演してきました。前半部分が国税の方だったのですが、若干トーンダウンというか揺り戻しがあるのかなというような(安全管理措置について、中小の場合は結構緩めているというような)印象で、まだ今後動きがあるかもしれません。

ということで、本書をマイナンバー法対応のための準備の一助としていただければ幸いです。

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増進会出版社による栄光ホールディングスの完全子会社化

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先日、増進会出版社Z会)による栄光ホールディングス(栄光)の完全子会社化のプレスリリースが発表されました。少子高齢化のなか、進学塾等の教育業界での統合がまた進みましたね。私も高校時代Z会をやっていたような気がします。

今回ちょっと注目すべきは、Z会による栄光に対する公開買付けの前に、栄光は自社株買いを行い、筆頭株主である進学会ホールディングス(進学会)が株主からいなくなることが想定されているという点です。

このような、第1段階:対象会社による自社株公開買付け、第2段階:買収者による他社株公開買付けといったスキームは(私の知る限り)初めてなのではないかと思います(自社株公開買付けと他社株公開買付けを同時に行うケースはあります。)。第1段階も第2段階も買収者による公開買付けというケースは幾つかすでに存在し、ブログでも取り上げたことがありますが、今回のスキームは、この亜種という見方もできるかもしれません。もっとも、企業の買収にあたって、ターゲットとなる企業が自らの剰余金を利用して自社株買いをすることによって、買収者の買収を助けるという点では、色々と問題となっているアムスクの事案を想像させます(この点は、アムスクの事案のように不特定多数からの株式取得を目的とする自社株公開買付け1回ではなく、その後に他社株公開買付け(かつ自社株公開買付けよりも高い価格)が行われることによって問題は低減されているという判断ができると思いますし、そうだからこそアドバイザーもこのスキームに関与できたのだとは思います。)。この点、今回のプレスリリースでは、何故このようなスキームになったのか理由が以下のとおり書かれています。

増進会出版社は、進学会ホールディングスとの間で、平成 27 年3月中旬に行われた面談において増進会出版社による公開買付けのみを実施するストラクチャーや対象者による自己株式の公開買付けを実施するストラクチャーを含めて提案を行い、また、その後、上記のとおり対象者との協議も踏まえつつ、公開買付けの価格等の条件を提案(対象者株式1株当たりの買付け等の価格として、 増進会出版社による公開買付けについては 1,400円程度、対象者による自己株式の公開買付けについては時価)の上、慎重に協議、交渉を行った結果、進学会ホールディングスから、対象者と増進会出版社資本提携の強化の目的及びその合理性について理解を得るに至りました。その結果、進学会ホールディングスとしては、同社における事情(公開買付者は、かかる事情の具体的な内容について把握していません。)を勘案した結果として、平成 27 年4月 17 日に、増進会出版社による公開買付けのみを実施する場合には、これに応募の確約はできないものの、対象者株式1株当たりの買付け等の価格を 1,450 円(以下「本自己株買付価格」といいます。)とする本自己株公開買付けが実施されれば、これに応募する用意がある旨が確認できました。」

とされており、Z会や栄光がどうしたかったというよりも、進学会側の意向に沿った形でスキームを練ったという点が指摘されています。

税務は専門でないのですが…、進学会が何故栄光による自社株取得には応じるとしたのか記載はありませんが、自社株公開買付けに応じた株主は一定の範囲でみなし配当課税の適用があり、法人の場合受取配当等の益金不算入の規定の適用を受けることができるためなのかもしれません。

 

 

マイナンバー法制度についてセミナーしました。

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5月12日(火)、13日(水)に、公認会計士協会東京会にてマイナンバー法についてお話ししてきました。一部が国税の方で、二部をより民間目線で、また法務面を加えて担当しました。2日間でトータル1000人位の方にご参加いただきました。

実際の講義内容は、一部の方との重複やご参加者の関心度を踏まえて、2日目を中心に資料から結構内容を変えてお話ししたのですが、ご参考まで。

来月以降、各種団体、法人からマイナンバー法関係のセミナー等のご依頼をいただいております。オフィシャルな発表から、会計ソフト会社さんのソフトウェアの対応状況などUPDATEすべきこともあるので、参考資料(①個人情報保護法上の規制との比較表と、②マイナンバーに関する業務の委託先との契約条項としてすぐに使える雛型を講義資料のほかに、お配りしています。)と合わせて、講義資料も充実させて臨みたいと思います。

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定型約款制度に関して

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民法改正案が3月31日付で国会に提出されました。今回の民法改正は、従前から議論されていた債権法改正の集大成であり、 実務に与える影響も少なくないものと思われます。今回は、多岐に渡る民法改正のうち、定型約款(民法改正案第548条の2以下)に関する取扱い(のごく一部)について取り上げたいと思います。定型約款とは、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」(民法改正案第548条の2第1項)と、定型取引とは、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」(民法改正案第548条の2第1項)と定義されています。 定型取引を行うことの合意をした者は、一定の場合(定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたか、定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していた場合)、定型約款の個別の条項について合意をしたものとみなされます(民法改正案第548条の 2第1項)。現状広く用いられている約款の法的な位置付けをしたのが今回の定型約款制度と言えるでしょう。 もっとも、そもそも定型取引は、取引の「内容の全部又は一部が画一的であることが」双方に合理的なものとされており、画一的であることが不合理であり定型約款に該当しないと判断される約款も出てくる可能性があります(例えば、約款の内容を相手方との間で特約条項により相当程度変更する場合など。この場合は、契約内容自体は有効となれば実際上不利益はないかもしれませんが、それ以外の定型的約款に該当しないとされる場合に約款が無効として民法の規定に沿って解釈されることもあり得るのではないかと思います。)。また、画一的であることの合理性の判断要素は今後の実務の集積を待たなくてはならないように思われます。 なお、相手方の権利を制限し、義務を加重する条項で、定型取引の態様、実情、社会通念に照らし信義則に反するものは、契約内容と認められません(民法改正案第548条の2第2項)。信義則違反となる場合は、「消費者の利益を不当に害することとなる」 条項を無効とする消費者契約法上の概念と必ずしも一致するものではないこと、即ちいわゆるB to B取引における約款が無効とされる可能性がある点には注意が必要です。