SatoYuki-Yuki Sato's Law Blog-

Partner, Attorney at Law admitted in Japan and New York. My areas of practice include M&A, corporate laws, investment funds as well as capital markets.

リバース・モリス・トラスト方式によるM&A(コティによるP&G美容部門の取得)

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コティがP&Gの美容部門を、リバース・モリス・トラスト方式を用いて125億ドルで買収したとのニュースがありました(http://www.businesswire.com/news/home/20150715005713/ja/#.VasjruLtmkp)。リバース・モリス・トラストとは、親会社が子会社を税務メリットのある形で売却する際に用いられる米国におけるM&Aの手法の一つです。リバース・モリス・トラストの手順としては以下の通りとなります。

①親会社は、売却しようとする子会社の株式を親会社の株主に分配します。米国の内国歳入法では、このような行為は一定の条件を充足すれば、親会社と親会社の株主のいずれにも税金がかからないそうです。

②前号で親会社と同一の株主構成となった旧子会社を合併相手先会社と合併します。内国歳入法によれば、旧子会社が(どちらが存続会社かはともかく)合併後存続会社の買収者と判断されれば、この行為も税金がかからないそうです。合併後存続会社の過半数の議決権を旧子会社側の株主が保有していれば「買収者」と判断されるようです。

今回のDealでは、P&Gの美容部門をP&G本体から分離します。P&G株主は、P&G美容部門から構成される新設会社の株式を「スピン・オフ」又は「スプリット・オフ」によって取得します。「スピン・オフ」や「スプリット・オフ」は、米国の税法上の概念ですので詳しくは省略しますが、日本法で考えると、子会社株式の現物配当か、仮に会社分割で親会社の事業の一部を子会社化した時に子会社株式を親会社株主に引き渡す人的分割みたいなものだと考えることができます。

本件では、上記で示したリバース・モリス・トラストのモデルを応用しており、新設会社の株式をP&Gの株主に引き渡した後、直ちに新設会社とコティの子会社とが合併し、新設会社の株主(P&Gの株主でもある)は、合併対価としてコティの株式(コティの子会社の株式ではなく)を取得することになります。これは、いわゆる三角合併で、日本の合併制度と違って必ずしも買収対象会社の株主に対して合併対価を買収者が払う必要がない点が特徴です。日本の感覚だと、コティ子会社が新設会社を吸収合併するので、コティ子会社が、自身の株式又はコティから取得したコティ株式などを新設会社の株主に対して引き渡すのが自然な気がしますが、制度の違いが大きく現れるところですね。合併によるコティの株式発行は、新設会社の株主が合併会社の完全希薄化後全発行済み株式の52%を受け取るようになっており、上記②で示したとおり、P&Gの新設会社がコティを買収した形になるように設計されています。リバース・モリス・トラスト方式を用いる場合、株主が合併後に過半数の議決権を保有することができるよう、同じかより小さい規模の企業を合併相手とするのが一般的です。

マイナンバー法の本を執筆しました。

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こんばんは。本日は、ご報告&宣伝を。

6月中旬、私が執筆者の一人となっているマイナンバー法関連の書籍が、発刊されます!マイナンバー法関連の書籍は昨年末頃からかなり出ていますが、本書は、弁護士、税理士などの専門家に加えて、セキュリティソフト会社の方が書いている点がちょっと面白いところかと思います。

昨年後半から報道~出版物なども結構出てきていますし、3月からは上戸彩ちゃんとマイナちゃんのテレビCMが放映されていて、関心が高まっていますね。

税、社会保障、災害対策の場面で行政機関がマイナンバーを利用することになり(例えば、源泉徴収票や支払調書にマイナンバーを記入する等)、そのための補助的な立場として、民間事業者も、マイナンバーを収集、利用、保管等することになるわけです。

マイナンバー対応の何が大変かというと、やはり安全管理措置のレベルが結構高いということですね。給与計算のアウトソーシングを受けている会社や、会計ソフトウェアについてみても、まだ話を聞くと対応が不十分じゃないかなと思われるものもあります。外注するにしても、マイナンバー法の規制を受ける「個人番号関係事務実施者」になるのは、委託元なわけですので、それなりの対応が必要になります。

ちなみに、先日は、公認会計士協会東京会の方で講演してきました。前半部分が国税の方だったのですが、若干トーンダウンというか揺り戻しがあるのかなというような(安全管理措置について、中小の場合は結構緩めているというような)印象で、まだ今後動きがあるかもしれません。

ということで、本書をマイナンバー法対応のための準備の一助としていただければ幸いです。

www.slideshare.net

増進会出版社による栄光ホールディングスの完全子会社化

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先日、増進会出版社Z会)による栄光ホールディングス(栄光)の完全子会社化のプレスリリースが発表されました。少子高齢化のなか、進学塾等の教育業界での統合がまた進みましたね。私も高校時代Z会をやっていたような気がします。

今回ちょっと注目すべきは、Z会による栄光に対する公開買付けの前に、栄光は自社株買いを行い、筆頭株主である進学会ホールディングス(進学会)が株主からいなくなることが想定されているという点です。

このような、第1段階:対象会社による自社株公開買付け、第2段階:買収者による他社株公開買付けといったスキームは(私の知る限り)初めてなのではないかと思います(自社株公開買付けと他社株公開買付けを同時に行うケースはあります。)。第1段階も第2段階も買収者による公開買付けというケースは幾つかすでに存在し、ブログでも取り上げたことがありますが、今回のスキームは、この亜種という見方もできるかもしれません。もっとも、企業の買収にあたって、ターゲットとなる企業が自らの剰余金を利用して自社株買いをすることによって、買収者の買収を助けるという点では、色々と問題となっているアムスクの事案を想像させます(この点は、アムスクの事案のように不特定多数からの株式取得を目的とする自社株公開買付け1回ではなく、その後に他社株公開買付け(かつ自社株公開買付けよりも高い価格)が行われることによって問題は低減されているという判断ができると思いますし、そうだからこそアドバイザーもこのスキームに関与できたのだとは思います。)。この点、今回のプレスリリースでは、何故このようなスキームになったのか理由が以下のとおり書かれています。

増進会出版社は、進学会ホールディングスとの間で、平成 27 年3月中旬に行われた面談において増進会出版社による公開買付けのみを実施するストラクチャーや対象者による自己株式の公開買付けを実施するストラクチャーを含めて提案を行い、また、その後、上記のとおり対象者との協議も踏まえつつ、公開買付けの価格等の条件を提案(対象者株式1株当たりの買付け等の価格として、 増進会出版社による公開買付けについては 1,400円程度、対象者による自己株式の公開買付けについては時価)の上、慎重に協議、交渉を行った結果、進学会ホールディングスから、対象者と増進会出版社資本提携の強化の目的及びその合理性について理解を得るに至りました。その結果、進学会ホールディングスとしては、同社における事情(公開買付者は、かかる事情の具体的な内容について把握していません。)を勘案した結果として、平成 27 年4月 17 日に、増進会出版社による公開買付けのみを実施する場合には、これに応募の確約はできないものの、対象者株式1株当たりの買付け等の価格を 1,450 円(以下「本自己株買付価格」といいます。)とする本自己株公開買付けが実施されれば、これに応募する用意がある旨が確認できました。」

とされており、Z会や栄光がどうしたかったというよりも、進学会側の意向に沿った形でスキームを練ったという点が指摘されています。

税務は専門でないのですが…、進学会が何故栄光による自社株取得には応じるとしたのか記載はありませんが、自社株公開買付けに応じた株主は一定の範囲でみなし配当課税の適用があり、法人の場合受取配当等の益金不算入の規定の適用を受けることができるためなのかもしれません。

 

 

マイナンバー法制度についてセミナーしました。

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5月12日(火)、13日(水)に、公認会計士協会東京会にてマイナンバー法についてお話ししてきました。一部が国税の方で、二部をより民間目線で、また法務面を加えて担当しました。2日間でトータル1000人位の方にご参加いただきました。

実際の講義内容は、一部の方との重複やご参加者の関心度を踏まえて、2日目を中心に資料から結構内容を変えてお話ししたのですが、ご参考まで。

来月以降、各種団体、法人からマイナンバー法関係のセミナー等のご依頼をいただいております。オフィシャルな発表から、会計ソフト会社さんのソフトウェアの対応状況などUPDATEすべきこともあるので、参考資料(①個人情報保護法上の規制との比較表と、②マイナンバーに関する業務の委託先との契約条項としてすぐに使える雛型を講義資料のほかに、お配りしています。)と合わせて、講義資料も充実させて臨みたいと思います。

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定型約款制度に関して

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民法改正案が3月31日付で国会に提出されました。今回の民法改正は、従前から議論されていた債権法改正の集大成であり、 実務に与える影響も少なくないものと思われます。今回は、多岐に渡る民法改正のうち、定型約款(民法改正案第548条の2以下)に関する取扱い(のごく一部)について取り上げたいと思います。定型約款とは、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」(民法改正案第548条の2第1項)と、定型取引とは、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」(民法改正案第548条の2第1項)と定義されています。 定型取引を行うことの合意をした者は、一定の場合(定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたか、定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していた場合)、定型約款の個別の条項について合意をしたものとみなされます(民法改正案第548条の 2第1項)。現状広く用いられている約款の法的な位置付けをしたのが今回の定型約款制度と言えるでしょう。 もっとも、そもそも定型取引は、取引の「内容の全部又は一部が画一的であることが」双方に合理的なものとされており、画一的であることが不合理であり定型約款に該当しないと判断される約款も出てくる可能性があります(例えば、約款の内容を相手方との間で特約条項により相当程度変更する場合など。この場合は、契約内容自体は有効となれば実際上不利益はないかもしれませんが、それ以外の定型的約款に該当しないとされる場合に約款が無効として民法の規定に沿って解釈されることもあり得るのではないかと思います。)。また、画一的であることの合理性の判断要素は今後の実務の集積を待たなくてはならないように思われます。 なお、相手方の権利を制限し、義務を加重する条項で、定型取引の態様、実情、社会通念に照らし信義則に反するものは、契約内容と認められません(民法改正案第548条の2第2項)。信義則違反となる場合は、「消費者の利益を不当に害することとなる」 条項を無効とする消費者契約法上の概念と必ずしも一致するものではないこと、即ちいわゆるB to B取引における約款が無効とされる可能性がある点には注意が必要です。

内閣府令一部改正による「買付け等の通知書」実務への影響

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今月12日に平成26年金融商品取引法等改正(1年以内施行)等に係る政令・内閣府令案等に関して、パブコメの結果が公表されました。政令・内閣府令は、今月15日に公布され29日から施行される予定です。今回も多様な点が改正対象とされ実務に大きな影響を与えるとは思いますが、今日はちょっと渋い点を取り上げてみたいと思います。

今回、発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令及び発行者による上場株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令が一部改正され、公開買付者が公開買付けの終了後に応募株主に送付する「買付け等の通知書」において、各様式から公開買付者の「氏名又は名称」欄から押印の「印」部分が消えることになりました。

従前、「買付け等の通知書」については、この部分があること等から、各「買付け等の通知書」1通ごとに押印する必要があるように思われ、これを印鑑の印影を印刷して代用することが適法なのか問題となっていましたが、この論点がなくなることになります。1通ごとに押印するのは、実務的に不可能に近いため、疑義があるものの印刷して対応していたのが、(大手を振って?)押印しない形になることによって、変な疑義が生じないことになります。実務に合わせた改正と評価できるのではないかと思います。

イマジカ・ロボットホールディングスの自己株式の処分及び株式売出し

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イマジカ・ロボットホールディングス(イマジカ)の自己株式の処分及び株式売出しが昨年春に発表されました(http211.6.211.247/tdnet/data/20140404/140120140403032860.pdf)。イマジカといえば、本社屋が西部警察のロケで使われたことでも知られる、映像関連会社ですよね。イマジカの保有している自社株と、親会社である株式会社クレアート(クレアート、一昨年のイマジカの有価証券報告によればイマジカの62.57%を保有)が保有しているイマジカ株式を売り出しによって放出するようです。

イマジカの親会社
イマジカの親会社であるクレアート自体は未上場会社ですので、有価証券報告書等の提出されていないのですが、金融商品取引法に基づき親会社等状況報告書の提出が必要とされており、ある程度の開示がなされています。親会社等状況報告書によれば、クレアートの親会社は、株式会社クレアートホールディングス(クレアートHD)という会社で、クレアートHDの株主は、林原の会社更生でスポンサーになった長瀬産業の創業家一族です。株の保有関係は、個人→クレアートHD→クレアート→イマジカということになります。

旧イマジカとフォトロンの合併
現在のイマジカは実は以前フォトロンという名前の企業でした。フォトロン時代の資本関係は、個人→クレアートHD→クレアート→イマジカ・ロボットホールディングス(旧イマジカ)→フォトロンでした。2011年4月1日に親会社である旧イマジカがフォトロンに吸収される形で合併しました(http://www.imagicarobot.jp/news/2011/pdf/hd_20110401.pdf)。通常は、親会社が子会社を吸収合併するのですが、旧イマジカとフォトロンは、子会社であるフォトロンが存続会社となり親会社である旧イマジカが吸収され消滅するといういわゆる逆さ合併を行っています。この合併の時に、フォトロンは、吸収した親会社の商号に、商号変更しています。この逆さ合併は、いわゆる裏口上場(というと、悪いことのように聞こえてしまいますが)のためではないかと考えられます。上場子会社であるフォトロンが親会社旧イマジカに吸収合併される場合、フォトロンの上場は廃止になるのですが、逆にフォトロンの上場を維持したまま合併するためには親会社側が吸収され子会社の法人格を維持する必要がありました。この吸収合併により、上場しているフォトロン(現イマジカ)の株式を保有しているのがクレアートになりました。

いずれにしても、オーナー企業において自己株式の処分及び株式売出しが行われるとオーナーの議決権割合は低下するため、あまり事例としては多くないのですが、オーナー企業で有名なイマジカが自己株式の処分及び株式売出しを行うということで注目してみました。