SatoYuki-Yuki Sato's Law Blog-

Partner, Attorney at Law admitted in Japan and New York. My areas of practice include M&A, corporate laws, investment funds as well as capital markets.

株式会社ADEKAによる日本農薬株式会社の公開買付と第三者割当増資の組み合わせによる子会社化

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株式会社ADEKA(「ADEKA」)が日本農薬株式会社(「日本農薬」)を公開買付と第三者割当増資を組み合わせて子会社化する(「本件取引」)という適時開示を先月21日に行いました(http://ow.ly/rHhT30m0jkE (「適時開示」))。

なお、報道によりますと本件に関しては日本農薬の外国人株主が反発しているようです(http://ow.ly/Cfhb30m0jm5)ので、ちょっとBlogに書いてみたいと思います。

本件取引の概要

ADEKAは、適時開示日現在、子会社を通じた間接保有分も含めて日本農薬普通株式を合計16,179,629株(所有割合24.21%。なお分母は発行済株式総数から自己株式を除いた数66,836,126株)保有しています。これを公開買付及び第三者割当増資を組み合わせて所有割合を51%まで引き上げるのが本件取引の目的です。

(1)   公開買付の概要

公開買付価格 普通株式1株につき900円

買付予定数の上限 12,056,049株(所有割合18.04%)

買付予定数の下限 7,667,952株(所有割合11.47%)

(2)   第三者割当増資の概要

払込価格 普通株1株につき670円

最低引受数 11,940,300株(既存保有数+買付数の上限と合計すると希薄化ベースで所有割合51%)

最大引受数 20,895,600株(既存保有数+買付数の下限と合計すると希薄化ベースで所有割合51%) 

本件取引では、公開買付で買付予定数の上限まで株式を取得できない場合に備えて、第三者割当増資により、ADEKAが取得する株式数を調整できるようになっています(トップアップオプション的な形。なお、トップアップオプションに関しては、http://ow.ly/t5pN30m0jo1も参照ください。)。

では、なぜこのようなスキームになったのかですが、日本農薬の適時開示によれば、

「当該連結子会社化の実現方法としては、当社と協議の上、 当社の資金需要にも応えるべく、公開買付けだけでなく、第三者割当増資により当社の資金調達を可能 とする方法を組み合わせることが望ましいとの結論に至ったとのことです。」(適時開示6頁参照)

とのことです。この記載からだと第三者割当増資だけでもよいような気もしますが、話の流れとしては、公開買付で買収で話をしていたが、日本農薬から資金調達もしたいという話がありこのようなスキームになったということだそうですが・・・・。

三者割当増資の目的

三者割当増資による資金調達に関しては、資金調達目的や他の資金調達手法を選択しなかった理由等を詳細に記載しなければなりません(どんどん厳しくなっています。)。仮に、第三者割当増資の全てをトップアップオプション的な使い方にしてしまうと、そもそも、第三者割当増資が資金調達目的でなされたのか、買収目的のための増資であり、いわゆる不公正発行に該当する増資ではなかったのかという疑問が生じること、仮に資金調達目的自体はあったと評価できても他の手段が選択しなかった合理的な理由を記載することに苦慮することから、本件のような一部の第三者割当増資は確実に行う手法を採用せざるを得なかったのではないかという気がしています。

資金調達目的に関しては、適時開示14頁に詳細に記載がされていますが、仮に公開買付で買付予定数の上限まで普通株式を取得することができた場合、約80億円しか資金調達できませんが、その場合どうするのかについては、

「本第三者割当増資は、本公開買付けとの組合せにより、ADEKAによる当社の連結子会社化(以下「本連結子会社化」といいます。)を実現するための取引の一環という側面も有しており、上記「1.募集の概要(注)2」に記載のとおり、ADEKAが引き受けた募集株式の一部について払込みのない可能性があり、その際には差引手取概算額が減額されることになり、本公開買付けにおける応募株券等の総数が買付予定数の上限(12,056,049 株)に達した場合、本第三者割当増資による払込金額の総額は 80 億円になります。なお、当該払込金額の総額は、今後の研究開発資金及び設備投資資金として、少なくとも約80 億円の資金需要があると判断し、ADEKAと合意の上、当該資金需要を満たすために本公開買付けにおける買付予定数の上限を設定したことによります。上記のとおり差引手取概算額が減額される場合の投資に係る施策に関しては、金融機関等からの借入れ等によって実施して参る予定です。なお、本第三者割当増資により調達する資金については、上記に記載する使途の支出時期が到来したものより充当してまいります。なお、調達資金を実際に支出するまでは、銀行口座にて管理いたします。」

とのことですので、金融機関等からローンで最大60億円程度借り入れるようです。

米国人投資家の主張について

米国人投資家は、670円で株式を取得しており、「株主を平等に扱うなら応募分を全て900円で買うべきだ。安く支配権を手に入れるために少数株主の権利を不当に害している」(http://ow.ly/xGpD30m0jpo)との主張のようですが、引受価格670円と公開買付価格900円が異なる点に関しては適時開示15頁で

「なお、本払込金額は 670 円であるところ、本公開買付けの買付価格は1株 900 円であり、本払込金額 (上記決議日の直前取引日の終値)と比較してプレミアムが付されています。このプレミアムは、本連結子会社化によって生じうるシナジーをあらかじめ分配するものと捉えられますが、本取引では、本公開買付け後にスクイズアウトを行うことは想定されておらず、当社株式は引き続き上場が維持される予定です。そのため、本取引では、株主の皆様にとっては、本公開買付けに応募しないで当社の株主として残ることを選択することが可能であり、そのような選択をされる株主の皆様は、本取引の実行後も引き続き、公開買付者たるADEKAと同様に、その持株比率に応じてシナジーを享受することが可能です。他方で、当社株主として残るという選択をせず、本公開買付けに応募する株主の皆様は、将来のシナジーを享受する機会を喪失することになります。そのため、本公開買付けの買付価格にのみプレミアムを付すことには合理性が認められると考えております。」

と説明しています。過去の公開買付及び第三者割当増資の議論からすれば、このような説明になろうかと思います。また実際、議決権ベースで51%の株式を取得するために公開買付で51%になるまで全部公開買付で900円で取得しようとすると、必要な資金は66,836,126株の51%からADEKAが既に保有している株式数を控除した数に900円を乗じた金額で161億1611万5734円ですので、公開買付と第三者割当増資を組み合わせて51%取得するために必要な資金(①買付予定数の上限に達した場合、公開買付で108億5044万4100円、増資で80億1000円で合計188億5044万5100円を要し、②買付予定数の下限の場合、公開買付で69億115万6800円、増資で140億5万2000円で合計209億120万8800円を要することになります。第三者割当増資だと分母となる発行済株式総数が増えるわけですね。)よりも少なくて済むので本件取引は「安く支配権を手に入れる」スキームではないのは明らかだと思います[1]日本農薬を全て公開買付で子会社化するよりも高額となるスキームであることをむしろADEKAの株主に説明する方がハードルが高いように思います。

 

[1] 一点気になるとすれば、900円という公開買付価格を自ら設定しておき、株価が900円に寄ることが想像されるにもかかわらず(実際は、全部買付ではないので買付期間の最終日の終値は811円。なお、買付予定数の上限に達する応募がありました。)、第三者割当増資によって1株当たり670円で株式を手に入れるのは、公開買付で取得した株式の取得価格と加重平均したとしても、一株約785.6円(仮に、買付予定数の下限の場合一株約731.7円)で取得することになるので、株式という有価証券の市場価格をADEKA自らが釣り上げておきながら、市場価格よりも安く株式を手に入れているという批判はありうるところだと思います。ただ、公開買付期間が終わった後、株価が811円を維持することは難しいことからこちらの批判もあまり成り立ちえないような気がしています(なお、実際に、27日現在779円と785.6円を下回っています。)。