SatoYuki-Yuki Sato's Law Blog-

Partner, Attorney at Law admitted in Japan and New York. My areas of practice include M&A, corporate laws, investment funds as well as capital markets.

M&Aと女性の職業生活における活躍の推進に関する法律

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「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年4月1日法律第64号)(「活躍推進法」)が2016年4月1日から全面施行されています。今日は、この法律がM&Aに与え(てい)る影響について一言。

活躍推進法第8条第1項に基づき、常時雇用する労働者が300人を超える企業は、「一般事業主行動計画」を定め厚生労働大臣に届出をすることが義務づけられています[1]。また、「一般事業主行動計画」を変更する場合も、同様に厚生労働大臣に届け出なければなりません。そもそも、この義務が課せられている企業のうちどの程度の企業が遵守しているのかわかりませんがあくまで遵守されていることを前提に考えてみたいと思います。

M&A実行時においては、当該義務が履行されているのかどうかチェックすることも、法務Due Diligenceの対象となってくると思いますが、M&A後のいわゆるPost Merger Integration(PMI)においても影響があるように思います。以下、合併、事業譲渡・会社分割及び子会社の売却の場合に分けて検討します。

法務部門がアラートして人事部門で対応する、PMIのためのプロジェクトチームがハンドルする等各社によって異なりますが、まだ新しい手続きですので、漏れがないようにしていただければと思います。

合併の場合

例えば、常時雇用する労働者の数が300名未満のA社と、常時雇用する労働者の数が300名未満のB社が合併をする場合、両社の常時雇用する労働者の数が合併によって300名を超えるときは、合併により新たに「一般事業主行動計画」の届出義務が生じることになるので、合併が決まった後、当該義務を遵守すべく、A社とB社と共同で一般事業主行動計画を策定するためのプロジェクトチームを造ることが考えらえます。

他方、既に「一般事業主行動計画」を届け出ているA社が、B社と合併しA社が存続会社となる場合[2]、当該行動計画の前提となる「採用した労働者に占める女性労働者の割合、男女の継続勤務年数の差異、労働時間の状況、管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合その他のその事業における女性の職業生活における活躍に関する状況を把握し、女性の職業生活における活躍を推進するために改善すべき事情」(活躍推進法第8条第3項)が異なることから、届け出ている一般事業主行動計画を変更することが望ましいのではないでしょうか。また、仮に、B社も一般事業主行動計画を策定している場合は、事前に両行動計画をすり合わせておくことも考えられます。

事業譲渡・会社分割の場合

常時雇用する労働者の数が300名以上であり、既に「一般事業主行動計画」を届け出ているA社が、事業譲渡や会社分割により、常時雇用する労働者の数が減少した場合、「一般事業主行動計画」の前提が異なってくることにより行動計画の目標の達成の見込みがなくなることも考えられます。このようなときは、事業譲渡や会社分割後、一般事業主行動計画を変更することが必要となってくるものと思われます。他方、事業譲渡で事業を譲り受けた会社や吸収分割会社が、常時雇用する労働者の数が300名以上となった場合は、合併の場合と同様、一般事業主行動計画を新たに策定し届け出る必要が出てきます。

子会社の売却の場合

「一般事業主」とは、企業グループ全体ではなく、各法人ごとに考えるのが原則のようです(厚生労働省の「状況把握、情報公表、認定基準等における解釈事項について」[3]問33参照)。そのため、一般的には、子会社の売却によって、当該義務がただちに問題になることはありません。もっとも、問33によれば、「グループ内で雇用管理が一体的になされている場合[4]など一定の場合は、グループ全体としての実施=各事業主の実施と解することができる。」とされており、例えば、A社がこれに従い、子会社B社を含める形で一般事業主行動計画を定めている場合は、B社が売却されたときは、一般事業主行動計画の目標の達成の見込みがなくなることも考えられます。その場合は、一般事業主行動計画を変更することが必要となるでしょう。また、もしB社を譲り受けたC社がグループ全体として一般事業主行動計画を定めていた場合、こちらも当該一般事業主行動計画の前提が異なってくることから、行動計画の変更をすることが考えられます[5]

 

[1] 常時雇用する労働者が300人未満の場合であっても、同条第7項において一般事業主行動計画の届出が努力義務となっています。

[2] 他方、一般事業主行動計画が届出済の会社が合併消滅会社となる場合、どのような手続きが必要かは必ずしも法律上明確ではありません。

[3] http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/kaishakujikou_4.pdf

[4] 「グループ内の雇用管理が一体的になされている」とは、 採用から配置・育成、登用に至るまでをグループ全体で行っていることを意味すると状況把握、情報公表、認定基準等における解釈事項について問33で記載されている。

[5] 子会社譲渡により一般事業主行動計画の対象外となった労働者に関して対象外となったことにより何らかの不利益が生じた場合は、労働法制に従い不利益変更の妥当性が問題になることも考えられることから、一般事業主行動計画の対象外となった労働者に対してどのような対応をするのかはM&A検討時に検討しておく必要があるものと考えます。