SatoYuki-Yuki Sato's Law Blog-

Partner, Attorney at Law admitted in Japan and New York. My areas of practice include M&A, corporate laws, investment funds as well as capital markets.

SGXにおける複数議決権株式の上場

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本日は複数議決権株式(通常は1株あたり1個の議決権が与えられるが、複数の議決権が与えられる場合)について取り上げてみたいと思います。日本の会社法では、種類株の1つとしての複数議決権株式は認められていません。

この点シンガポールでは、今年1月のシンガポール会社法の改正によって、1株1議決権とする規制が排除され複数議決権が認められました。これを受けて、シンガポール証券取引所(SGX)のThe Listings Advisory Committee (“LAC”)は、いわゆるDual Class share (DCS)structuresの上場に賛成する旨を表明しました(http://www.sgx.com/wps/wcm/connect/b9f773a8-d2b0-4920-8466-6bf021df5332/SGX+Listing+Advisory+Committee+Report+FY2016.pdf?MOD=AJPERES&CACHEID=b9f773a8-d2b0-4920-8466-6bf021df5332)。

DCS structuresでは、例えばA種株式1株には1議決権を与え、B種株式1株には2議決権を与えるようなストラクチャーが考えられます。この場合、創業者はB種株式を保有し、一般株主にはA種株式を募集・売出することによって、相対的に少ない投資額で会社の支配権を維持する形にすることができます。

もっとも、DCS structuresを何らの制限もなく設計することができるようにすると一般株主の利益を害する恐れがあることから、LACは、SGXがDCS structuresを認めるとしても、上場申請を行う会社について、業種、サイズ、事業運営の実績、sophisticated investorsからの資金調達等の要素を含め総合的な評価を行うこととしています。

また、議決権の集中・固定化を最小化するため、以下のような制限を加えることを示唆しています。

  1.  1株あたりの議決権数の差が最大10倍までとする。
  2.  上場後の各種類株式の割合を変更することとなる複数議決権株の増資を禁止する。また、現状1株1議決権となっている会社がDCS structuresとなるような増資は禁止する。
  3.  創業者等による複数議決権株の売却、役員からの退任等の一定の条件により自動的に普通株式に転換する仕組みを入れる。

また、少数株主を害して会社から利益を不当に得る事態を防ぐため、

  1.  取締役会、指名委員会、報酬委員会及び監査委員会について、取締役会の独立や委員会設置に関するコーポレートガバナンスコードに従うこと
  2.  普通株主が独立取締役を選ぶ場合、複数議決権株主が議決権を行使できない仕組みとすること

を求めています。

さらに、DCS structuresを採用する場合の、株主の権利がどのようなものであるか等の情報開示の徹底が求められます。これによって、一般株主の利益にも配慮しているわけです。SGXはDCS structure採用により、より多くのhigh-quality companyのSGXでの上場につながると考えているとのことです。今後DCS structureを使った会社が上場することになるのか見守りたいと思います。

あと、話変わりますが、先日米国向けに日本でのM&Aに関するセミナーをしましたが、その時のスライドをSlide Shareに入れておりますのでよろしくお願い申し上げます。

www.slideshare.net