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Partner, Attorney at Law admitted in Japan and New York. My areas of practice include M&A, corporate laws, investment funds as well as capital markets.

会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律施行規則等の改正等

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本日は、本年9月1日から施行された、M&A(会社分割、事業譲渡、合併)における労働契約のあり方について定めた、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律施行規則」(「承継法施行規則」)等の改正等について概説します。

 1. 承継法施行規則等の改正等

会社によるM&Aは、会社の事業規模の拡大、新規事業分野への進出等々の目的でなされますが、労働者側からすると雇用関係に与える影響が少なくないため、これまで、労働関連法令に加えて、会社分割においては「会社分割に伴う労働契約の承継に関する法律」(「承継法」)及び「分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針」(「承継法指針」)により、労働者保護のための必要な手続き等が定められています。

今般、会社法等の法整備の状況や、組織の変動にかかる裁判例の蓄積等を踏まえ、労働者保護の観点から一定の対処が必要な事項が生じているとした、組織の変動に伴う労働関係に関する対応方策検討会報告書(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000121228.pdf)が出され、これを踏まえ、承継法施行規則や承継法指針が改正され今月1日から施行、適用されています。

また、事業譲渡及び合併については、上記報告書の内容を踏まえ、会社が留意すべき事項を示した事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針(「事業譲渡等指針」)が新たに策定され、今月1日から適用が始まっています。

2. 改正等内容

(1)   承継法施行規則の改正

会社分割の際の労働者への通知事項(施行規則第1条)として、労働者の労働契約が承継会社等(承継会社及び新設会社)に承継される場合には、労働条件はそのまま維持されることを通知することが盛り込まれました(同第1条第2号)。

(2)   承継法指針の改正

従前、承継される事業に主として従事する労働者との労働契約を会社分割によって承継会社に承継させるのではなく、いわゆる転籍合意に基づき承継会社に転籍させる場合には、承継法で定められた通知(承継法第2条)や、労働契約が承継されないことへの異議申立手続(承継法第4条)等が法律の文言上は適用されない形となっていました(転籍によって、承継法上の手続を取らないケースも相当数あったのではないかと思います。)。 

今般、このような転籍による場合にも、承継法上の通知や、商法等改正法附則第5条で義務付けられた協議等の手続きは省略できないことが承継法指針上明文化されました。

なお、承継される事業に主として従事する労働者が、分割会社との労働契約を維持したまま、承継会社等との間で新たに労働契約を締結し出向する場合でも、通知及び協議等の手続が必要であることも明文化されました。

また、商法等改正法附則第5条の協議等の対象となる労働者として、承継される事業に従事していない労働者であって分割契約等にそのものが当該分割会社との間で締結している労働契約を承継会社等が承継する旨の定めのあるものも含まれることとなりました。なお、当該協議の内容として、効力発生日以後における分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項も含まれることとなりました。

そして、承継される事業に主として従事する労働者に対して、分割契約等に承継会社等が当該労働者の労働契約を承継する旨の定めがある場合には、分割会社との間で締結している労働契約は、分割会社から承継会社等に包括的に承継されるため、その内容である労働条件はそのまま維持されること、及び当該労働者の労働契約を承継する旨の定めがない場合には、承継法第4条第1項の異議の申出をすることができることを当該労働者に対して説明することが求められることとなりました。これに対して、当該労働者が分割契約等に承継会社等が当該労働者の労働契約を承継する旨の定めのないことにつき、承継法第4条第1項の異議の申出をした場合には、同条第4項の規定に基づき、当該労働者が分割会社との間で締結している労働契約がその内容である労働条件を維持したまま承継会社等に承継されることとなり、これに反する転籍部分は、無効となることを留意するよう明文化されました。

これ以外に、企業年金の取扱いについてもかなり詳細な説明がなされています。

(3)   事業譲渡等指針の新設

会社が、事業譲渡を行い、当該事業に従事する労働者の労働契約を事業譲渡先に承継させようとする場合、契約上の地位の譲渡ということになりますので、労働者の個別の承諾が必要となります。事業譲渡等指針は、この労働者の承諾を得る上での事前の協議等を経て適切に行うよう、会社が留意すべき事項が定められました。

これにより、労働承継を伴う事業譲渡のとき手続き的にチェックすることが増えましたのでアドバイザーとしても留意が必要かと思います。