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最高裁平成28年7月1日決定(株式取得価格決定に対する抗告許可決定に対する許可抗告事件)について

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最高裁平成28年7月1日決定(株式取得価格決定に対する抗告許可決定に対する許可抗告事件。以下「本決定」といいます。)が7月4日に公表されました。本決定は、上場廃止を目的とするMBOや上場子会社の完全子会社化を目的とするいわゆる二段階買収[1]が採られる際の全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定に関する最高裁の判断であり、実務にも大きな影響を与えるものと思われます。

平成26年会社法改正前においては、MBOや上場子会社の完全子会社化を行う場合、①公開買付けを行った後、②普通株式を全部取得条項付種類株式に変更し、全部取得条項を行使し公開買付けに応じなかった少数株主に対して対価として金銭を交付することにより少数株主をスクイーズ・アウトする手法が一般的に採用されていました。

本決定は、この②で行われる全部取得条項付種類株式の取得価格が①で行われる公開買付けによる買付価格(以下「公開買付価格」といいます。)と同額であるのに対して、少数株主が会社法第172条第1項に基づき[2]取得価格の決定の申し立てをした事案に対する最高裁としての判断です。

原審は、公開買付け公表時においては、公開買付価格は公正な価格であったと認められるものの、その後の各種の株価指数が上昇傾向にあったことなどからすると、取得日までの市場全体の株価の動向を考慮した補正をするなどして全部取得条項付種類株式の取得価格を算定すべきであり、第1段階の公開買付価格を取得価格として採用することはできないとしました(結論として、公開買付価格は12万3,000円であったのに対し、取得価格として13万0206円としました)。

これに対して、最高裁は、「多数株主が株式会社の株式等の公開買付けを行い、その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし、当該株式会社が同株式の全部を取得する取引において、独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ、公開買付けに応募しなかった株主の保有する上記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記公開買付けが行われ、その後に当該株式会社が上記買付け等の価格と同額で全部取得条項付種類株式を取得した場合には、上記取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り、裁判所は、上記株式の取得価格を上記買付けにおける買付け等の価格と同額とするのが相当である。」と判断しました。

最高裁としては、(1)会社の意思決定過程の恣意性を排除する措置が講じられており、(2)第1段階の公開買付価格と第2段階における取得価格が同額である旨が公開買付届出書や適時開示資料によって開示されている場合、原則として、第1段階の公開買付けによる買付価格と第2段階における取得価格が同額であることが相当としています。理由としては、上場廃止を目的とするいわゆるMBOや上場子会社の完全子会社化といったディールにおいては、第1段階の公開買付価格は「全部取得条項付種類株式の取得日までの期間はある程度予測可能」であり、取得日までに生ずる株式取引市場の「一般的な価格変動についても織り込んだ上で定められている」ことが挙げられています。

MBOや上場子会社の完全子会社化といったディールでは、多数株主又は会社と少数株主の間に利益相反関係が存在することになりますが、本決定によれば、独立した第三者委員会や弁護士等の専門家の意見を聴くなど公開買付け(とそれに続く少数株主のスクイーズ・アウト)の過程・手続が公正であれば、裁判所が実体的に価格を算定することは行わずに公開買付価格と同額であることをもって相当とするという立場最高裁が採用したものと評価することができるでしょう。今後は、少数株主による会社法第172条第1項に基づく取得価格の決定の申し立てが行われる可能性は低くなったのではないかと思われます。

もっとも、本決定はあくまで、全部取得付条項種類株式に関する会社法第172条第1項の取得価格の決定についての判断であり、平成26年会社法改正後においてスクイーズ・アウトの手段として利用されるようになった株式併合や特別支配株主による株式等売渡請求における価格決定の申立においても、本決定と同様の判断がなされるかは別途の検討が必要である点を付け加えさせていただきます。

 

[1] 第一段階として公開買付けを行い第二段階として公開買付けに応じなかった株主をスクイーズ・アウトすること

[2] ①全部取得条項付株式の取得に反対する旨を会社に通知しかつ株主総会において反対した株主及び②議決権を行使することができない株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、取得の価格の決定の申立てをすることができるとされます(会社法第172条第1項)。