SatoYuki-Yuki Sato's Law Blog-

Partner, Attorney at Law admitted in Japan and New York. My areas of practice include M&A, corporate laws, investment funds as well as capital markets.

M&Aと競業避止義務

このところM&A案件が続いていることもあり、ちょっと思い出したM&Aネタを書いておきたいと思います。ちなみにかなりデフォルメしております。

とあるM&A案件の話なのですが、コアとなる契約には、一般的な競業避止義務条項が記載されていました。競業避止義務条項自体は、それほど珍しいものでもなく、案件終了後すぐに売主が同じようなビジネスを始めてしまったら買主は困りますから、買主側としては必須とも言える条項です。

その上で、一体どの範囲で競業避止義務を負うのか、案件ごとに検討が必要となります。例えば、売主だけなのか関連会社も競業となりうるビジネスをしてはいけないのか、また地域限定にするのかなどです。そのとある案件では、競業避止義務を負うエンティティは、売主、子会社と「関連会社」という形で、売主側で契約書が用意されていました。これに対して、買主側のコメントバックでは、競業避止義務条項に修正が加えられており、競業避止義務を負うエンティティとして売主と「関係会社」という修正されていました。

「関連会社」というのは、会社計算規則第2条第3項第18号で定める関連会社、すなわち、「会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該他の会社等(子会社を除く。)」を意味します。他方で、関係会社というのは、会社計算規則第2条第3項第22号で定める関係会社、すなわち、「当該株式会社の親会社、子会社及び関連会社並びに当該株式会社が他の会社等の関連会社である場合における当該他の会社等」を意味します。この関連会社と関係会社の違いとしては、売主の「親会社」も含まれることになります。すなわち、売主グループとしてみたときには、その事業に対する制限は一段大きなものとなります。

その案件では、買主側の意向が厳しい(厳しすぎる)と判断して、売主側は、Deal Breakとしました(結果として別の会社に売りました)。文言表現で言えば、「関連」を「関係」に変えただけであり、ちょっとした変更ですし、買主のカウンセルは某法律事務所でしたが、契約書を見て、セオリー通りにクライアントが有利になると思って修正してきただけかもしれません。にもかかわらず、Dealそのものが破談になるという重大な結果に至ったということで、個人的には印象に残っています。

仮に、買主のカウンセルが、さらっと修正したとしても、その弁護士に能力がないとは全く思いませんが、ちょっとした修正が大きな結果の差を生むこともあると私自身も肝に銘じなくてはと思った次第です。また、実際に事業を行っているビジネスサイドの方からすると、将来における会社のあり方に対して制約を生む競業避止義務というのは、契約書の数ある条項の中でもやはり重要視する項目の一つであるということを改めて実感しました。

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写真は、パリ市役所です。日本の市役所と違って趣がありますね。