SatoYuki-Yuki Sato's Law Blog-

Partner, Attorney at Law admitted in Japan and New York. My areas of practice include M&A, corporate laws, investment funds as well as capital markets.

M&A等におけるデュー・ディリジェンスに伴う個人データの相手方への提供について

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あっという間に法務アドベントカレンダーの時期がやってきました。1年はあっという間です。

昨年から本年は、大改正があったことで関心が高まった個人情報保護法(本年5月30日から完全施行。以下「法」)に関連する執筆に複数携わらせていただきました。

「クロスボーダーのM&Aプロセスにおける個人情報の保護と利活用」(ow.ly/9bqF30hpvDa) 

個人情報保護法相談標準ハンドブック」(ow.ly/HUlO30hpvGk) 

本日はその中で、気になっている(自分の中で腹落ちしていない)ことの1つ、M&Aや投資におけるデュー・ディリジェンスの場面での個人情報[1]の取扱いに触れたいと思います。

1.個人データの第三者提供の原則と例外

個人情報取扱事業者[2]が個人データ[3]を第三者に提供する際には、原則として本人の事前の同意を必要[4]となりますが、以下の場合には、本人の事前の同意を得ることなく、個人データを第三者に提供することができることとされています。個人情報の主体である本人の権利・利益と、個人情報の有用性、利便性のバランスを取ったものです。

まずは、法第23条第1項各号の場合ですね。

① 法令に定める場合

② 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

③ 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

④ 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

それから、

⑤ いわゆるオプトアウトによる場合(本人の求めに応じて個人データの第三者への提供を停止することとしている場合であって、所定の事項につき、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置くとともに、個人情報保護委員会に届け出たとき[5])(法第23条第2項)

さらに、以下の場合は、当該個人データの提供を受けた者は「第三者」に該当しないこととなります。この場合、確認・記録義務(法第25条、第26条)も不要となります。

⑥ 個人データの取扱いの委託による場合(法第23条第5項第1号)

⑦ 合併その他の事由による事業の承継による場合(同第2号)

⑧ 共同利用による場合(同第3号)

以上の例外事由に該当する場合は、本人の事前の同意を得ることなく、個人データを第三者に提供することができることとされています。

2. デュー・ディリジェンスに伴う個人データの相手方への提供

以上の8つの例外事由のうち、M&Aの場面で最初に思いつく例外事由は、⑦合併その他の事由による事業の承継による場合ですが、そもそもM&Aの前段階となるデュー・ディリジェンスの段階では、合併も事業の承継も行われておらず、⑦の例外に文言上該当しないのではないかという疑問が生じますが、この点、合併先又は事業の承継先候補者に個人データの提供をすることも「合併その他の事由による事業の承継による場合」に該当するものと考えられます。もっとも、「利用目的及び取扱方法、漏えい等が発生した場合の措置、事業承継の交渉が不調となった場合の措置等、相手会社に安全管理措置を遵守させるために必要な契約」を締結することが必要となります(個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)52頁)[6]

そのため、M&Aの前段階となるデュー・ディリジェンスの段階であっても本人の事前の同意を得ることなく、個人データを第三者に提供しうることになります。

3. M&Aのスキームと個人データの相手方への提供の可否

M&Aの前段階となるデュー・ディリジェンスの段階であっても、個人データの提供が認められるとしても、そもそも、M&Aの手法はいくつかあり、全ての手法が「合併その他の事由による事業の承継」に該当するわけではないのではないかという疑問があります。会社の合併や事業承継は当然「事業の承継」に該当しますが、事業会社やファンド(以下「投資家」)が、対象会社を子会社化すべく株式の譲渡[7]を受けたり、あるいは完全買収ではなく(大)株主となったりする場合、「合併その他の事由による事業の承継に伴って、個人データが提供される場合」ないしこれに準じて、本人の承諾なしに個人データを投資家に提供することは認められるでしょうか。

この点、結論から言うと株式の譲渡を受ける場合に伴い、個人データが提供されるときは、「事業の承継」に伴う第三者提供の例外にはあたらず、原則どおり本人の同意が必要と解さざるを得ないでしょう。

事業の承継がなされないのであれば、本人の承諾なしに個人データを第三者提供させる必要がないでしょうということなのでしょうね。実際、個人情報が塗りつぶされた形で開示されることもあります(その方が受領側も管理の負担が軽くなりますし)。

ただ、株主名簿の個人情報(氏名や住所)はどうなのでしょうか?投資家は、株主名簿を確認した後、当該株主について反社会的勢力(対象会社がベンチャー企業であり投資後上場が想定されるといった場合では反市場勢力でないかも)チェックすることになるでしょうから、塗りつぶすわけにいきません。本人の承諾を取ることも難しいでしょうし…。

そうなると、

(1) 本人の同意をとる

(2) 個人データの取扱いの事務を委託している(とこじつける構成する)

(3) 合併その他事業の承継に伴って提供される(とこじつける構成する)

(4) 財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき(と構成する)

のいずれかになるのでしょうか。

(2)委託又は(3)事業の承継というのもありうるかと考えたのは、個人情報保護委員会が公表する改正法に関するQ&Aで、金融機関からの債権の買取りの入札に関する事案において、質問自体は、確認・記録義務に関するものですが、譲渡対象債権のデュー・デリジェンスを行って入札価格を提示したものの、落札に至らなかったために、守秘義務契約に基づき当該データを速やかに削除する場合には、「その提供の形態は実質的に委託又は事業承継に類似するものと認められ」るとして、「その他確認・記録義務を課すべき特段の事情」がなければ、確認・記録義務の対象にはならないと説明されていることから可能性もありうるかと考えました。

(1)同意を取るのは正面突破ですね。投資について説明しないといけないような場合(同意なしに投資を受けることが禁止されるような株主間契約が存在する場合)は、その際に対象会社から話をしてもらうのでしょう。

それが難しいような場合であれば、(4)財産保護のために必要で本人の同意を得ることが困難な場合、に当てはまるかどうかでしょうか。「人の同意を得ることが困難であるとき」とは、物理的に同意を得がたい場合に限られず、悪質なクレーマーであることの情報のように本人が同意することが社会通念上期待しがたい場合等も含みますので、場合によっては該当しそうな気もします。そんな株主がいるような会社に投資するのは嫌ですが・・・

なお、1株でも持っていれば、株主として株主名簿閲覧請求権(会社法第125条第2項)として認められますね。また、M&A完了後に、上述した共同利用の形をとって対象会社が取得した個人データの提供を受けることも考えられます[8]

いずれにせよ、株式の譲渡を受ける場合など、「事業の承継」に該当しない場合には、個人データの提供にあたり本人の同意を求められる可能性が高いことになります。また、個人データの提供を受けた第三者として確認・記録義務(法第25条、第26条)が生じることになります。

以上のとおり、株式譲渡によるM&Aや第三者割当増資による出資にかかるデュー・ディリジェンスは、「事業の承継」に該当するM&Aにかかるデュー・ディリジェンスとは異なる規制が生じるため留意が必要です。上記の話でいえば、株主名簿の提供等は株主の同意が必要となり[9]、同意の取得ができなかった場合、個人情報保護法との関係では、デュー・ディリジェンスの深度も「事業の承継」に該当するM&Aにかかるデュー・ディリジェンスよりも浅くならざるを得ないということは意識しておく必要があろうかと思います。

 

来年になってしまうかもしれませんが・・・、次回は、適格機関投資家特例業務と犯収法の適用範囲について取り上げてみたいと思います。

 

[1] 法改正に伴い「個人情報」の定義も変更され、①氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)と、②個人識別符号が含まれるもの(一定のゲノムデータ、顔認証できるようにした顔の骨格等から抽出した特徴情報、パスポート番号等)が含まれます(法第2条第1項、個人情報保護法施行令第1条、個人情報保護法施行規則第2条乃至第4条)。

[2] 個人情報取扱事業者」とは、個人情報データベース等を事業の用に供している民間事業者を指します(法第2条第5項)。

[3] 個人情報データベース等(個人情報を含む情報の集合物であって、特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの等をいう。)を構成する個人情報を「個人データ」といいます(法2条第6項)。

[4] 金融分野や厚生労働分野においては、原則として書面による同意を取得するようガイドラインで規定されています。

[5] 第三者提供をそもそも個人情報の利用目的としている場合です。個人情報保護委員会への届出が必要という改正がなされた箇所ですね。なお、個人情報保護員会ウェブサイトをみると、本日現在119件の届出がなされています。

[6] 個人データ以外の機密情報についてはどうでしょうか?多くの場合重要な取引先の契約が承継先候補者に開示されると思われますが、取引先との契約には守秘義務条項があり、M&Aの場合に承継先(買主)に当該契約が開示されることなど想定した記載はないでしょう。法令又は契約上の例外規定はないので、承継先候補者と秘密保持契約を締結した上で、自己責任で開示することになるでしょう。

[7] 第三者割当増資により議決権の過半数を取得する場合を含みます。

[8] 顧客にグループ会社からの商品情報を送ったり、従業員のHR関連情報を共有するなど、共同利用はグループ会社間でとられることがありますが、この場合は、対象会社のもともとの利用目的の範囲でしか共同利用を行うことはできません。

[9] それ以外にも書類の真正性を確認したり、又は個人情報を削除するのが難しかったりする場合、個人情報が含まれた形で書面や情報が開示されることもあるでしょう。

株式会社アエリアによる株式会社トータルマネジメントの子会社化

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最近M&Aを繰り返していてちょっと話題の株式会社アエリア(「アエリア」)が、2017年9月26日付で、株式会社トータルマネジメント(「トータルマネジメント」)を子会社化すると適時開示を出していました(http://www.aeria.jp/pdf/urnQBz)。

今回の子会社化のスキームは、①アエリアが普通株式の発行済株式数の全てを保有し、あかつき証券株式会社(「あかつき証券」)が議決権のない優先株式保有するアエリアの子会社株式会社アエリア投資弐号(「取得用子会社」)が、トータルマネジメントの株主から現金を対価としてトータルマネジメントの全株式を一旦取得し、その後、②あかつき証券保有する取得用子会社の優先株式が取得用子会社の普通株式に転換[1]され、アエリアと取得用子会社で株式交換を行うことにより、あかつき証券保有する取得用子会社の普通株式を全部アエリアが取得することによってアエリアは、トータルマネジメントの完全子会社化を行うとのことです(トータルマネジメントは、アエリアの直接の子会社になるのではなく、取得用子会社を通じて孫会社という形になります。)。

アエリアからすれば、トータルマネジメント株の対価として、アエリア株を用いる形でキャッシュアウトを抑えて買収できることになります。他方、トータルマネジメントの株主からすれば現金化し利益を確定することができ、取得用子会社に優先株出資を行ったあかつき証券はアエリア株が値上がりすることによって利益を得ることを狙ったDealということになろうかと思います。

ちなみに、取得用子会社は、トータルマネジメント株を保有するためだけのビークルであり、取得用子会社の価値はトータルマネジメント株式のみから構成されており、その意味では、先月開示された前に本ブログでも書かせていただいた、株式会社エボラブルアジアによる株式会社まぐまぐの買収事例(http://yukis725.hatenadiary.jp/entry/2017/09/17/030302)や株式会社アクロディアによる株式会社エンターティンメントシステムズを完全子会社とする株式交換契約を締結した事例(http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1510905)に少し似たスキームという面がありますね。なお、取得用子会社の設立は今月5日で適時開示によれば「取得用子会社は、対象会社を取得するために設立された会社のため記載すべき経営成績及び財政状態はありません。」とのことです。

[1] 適時開示によれば、「本株式交換においては、当社は、本株式交換により当社が取得用子会社の発行済株式の全部を取得する時点の直前時(以下「基準時」という)に、取得用子会社 の株主名簿に記載された取得用子会社 の 株主(当社を除く)に対し、取得用子会社の優先株式に代わり、その所有する取得用子会社の普通株式の数に、以下の算式により算出される株式交換比率を乗じて得た数の当社の普通株式を割り当てます。」との記載があることから株式交換が行われる前に優先株式普通株式に転換されるものと考えられます。なお、適時開示には、「当社は、基準日における取得用子会社の株主の所有する取得用子会社の優先株式数の合計数に、 上記株式交換比率を乗じて得た数の当社の普通株式を交付します。当社は、本株式交換による 株式の交付に際し、新たに普通株式を発行する予定です。」との記載もあり、優先株式を直接取得するのではないかと思わせる記載もあり、スキームは少々不明確ではあります

株式会社エボラブルアジアによる株式会社まぐまぐの子会社化

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ちょっと話題の株式会社エボラブルアジア(「エボラブルアジア」)が、2017年9月12日付で、株式の取得及び簡易株式交換により株式会社まぐまぐ(「まぐまぐ」)を子会社化すると適時開示を出していました(http://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS99831/e13a1524/ba55/4914/9e12/930069709e62/140120170911471808.pdf?_ga=2.123944586.1815712226.1505317662-150090133.1505317662)。

エボラブルアジアは、①まぐまぐの85.7%の株式を保有するニューホライズン 2 号投資事業有限責任組合から65,574 株 (議決権の数:65,574 個)(議決権所有割合:59.6%)を相対で取得し、また、②まぐまぐの株式28,682株をニューホライズン 2 号投資事業有限責任組合から取得する予定の株式会社エヌ・エイチ・シー・フィフティーン(「NHC15」)との間で簡易株式交換を行うことにより、NHC15を通じてまぐまぐの株式 28,682 株を①に加えて保有するようです。

NHC15の親会社は、ニューホライズン 2 号投資事業有限責任組合を運用するニューホライズンキャピタル株式会社であり、「予定」とはいえ、確実にまぐまぐの株式をニューホライズン 2 号投資事業有限責任組合から取得できるものと思われます。なお、簡易株式交換の効力発生日までに、ニューホライズンキャピタル株式会社は、NHC15の全株式をニューホライズン 2 号投資事業有限責任組合に譲渡することから、簡易株式交換の結果、エボラブルアジア株を取得するのは、ニューホライズン 2 号投資事業有限責任組合ということになるようです。

エボラブルアジアからすれば、まぐまぐ株の対価として、現金+エボラブルアジア株という形でキャッシュアウトを少し抑えて買収した格好になります。他方、ニューホライズン 2 号投資事業有限責任組合からすれば、一部は現金化し利益を確定し、一部エボラブルアジア株の値上がりによる+αを狙ったDealということになろうかと思います。

ちなみに、NHC15は、まぐまぐ株を保有するためだけのビークルであり、NHC15の価値はまぐまぐ株式のみから構成されており、その意味では、先月開示された株式会社アクロディアによる株式会社エンターティンメントシステムズを完全子会社とする株式交換契約を締結した事例(http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1510905)に少し似たスキームという面がありますね。なお、NHC15の設立は昨年10月13日ですので、NHC15は本Dealのために設立されたものなのかその設立経緯は上記のエボラブルアジアの適時開示上は明らかではありません。

M&Aと女性の職業生活における活躍の推進に関する法律

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「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年4月1日法律第64号)(「活躍推進法」)が2016年4月1日から全面施行されています。今日は、この法律がM&Aに与え(てい)る影響について一言。

活躍推進法第8条第1項に基づき、常時雇用する労働者が300人を超える企業は、「一般事業主行動計画」を定め厚生労働大臣に届出をすることが義務づけられています[1]。また、「一般事業主行動計画」を変更する場合も、同様に厚生労働大臣に届け出なければなりません。そもそも、この義務が課せられている企業のうちどの程度の企業が遵守しているのかわかりませんがあくまで遵守されていることを前提に考えてみたいと思います。

M&A実行時においては、当該義務が履行されているのかどうかチェックすることも、法務Due Diligenceの対象となってくると思いますが、M&A後のいわゆるPost Merger Integration(PMI)においても影響があるように思います。以下、合併、事業譲渡・会社分割及び子会社の売却の場合に分けて検討します。

法務部門がアラートして人事部門で対応する、PMIのためのプロジェクトチームがハンドルする等各社によって異なりますが、まだ新しい手続きですので、漏れがないようにしていただければと思います。

合併の場合

例えば、常時雇用する労働者の数が300名未満のA社と、常時雇用する労働者の数が300名未満のB社が合併をする場合、両社の常時雇用する労働者の数が合併によって300名を超えるときは、合併により新たに「一般事業主行動計画」の届出義務が生じることになるので、合併が決まった後、当該義務を遵守すべく、A社とB社と共同で一般事業主行動計画を策定するためのプロジェクトチームを造ることが考えらえます。

他方、既に「一般事業主行動計画」を届け出ているA社が、B社と合併しA社が存続会社となる場合[2]、当該行動計画の前提となる「採用した労働者に占める女性労働者の割合、男女の継続勤務年数の差異、労働時間の状況、管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合その他のその事業における女性の職業生活における活躍に関する状況を把握し、女性の職業生活における活躍を推進するために改善すべき事情」(活躍推進法第8条第3項)が異なることから、届け出ている一般事業主行動計画を変更することが望ましいのではないでしょうか。また、仮に、B社も一般事業主行動計画を策定している場合は、事前に両行動計画をすり合わせておくことも考えられます。

事業譲渡・会社分割の場合

常時雇用する労働者の数が300名以上であり、既に「一般事業主行動計画」を届け出ているA社が、事業譲渡や会社分割により、常時雇用する労働者の数が減少した場合、「一般事業主行動計画」の前提が異なってくることにより行動計画の目標の達成の見込みがなくなることも考えられます。このようなときは、事業譲渡や会社分割後、一般事業主行動計画を変更することが必要となってくるものと思われます。他方、事業譲渡で事業を譲り受けた会社や吸収分割会社が、常時雇用する労働者の数が300名以上となった場合は、合併の場合と同様、一般事業主行動計画を新たに策定し届け出る必要が出てきます。

子会社の売却の場合

「一般事業主」とは、企業グループ全体ではなく、各法人ごとに考えるのが原則のようです(厚生労働省の「状況把握、情報公表、認定基準等における解釈事項について」[3]問33参照)。そのため、一般的には、子会社の売却によって、当該義務がただちに問題になることはありません。もっとも、問33によれば、「グループ内で雇用管理が一体的になされている場合[4]など一定の場合は、グループ全体としての実施=各事業主の実施と解することができる。」とされており、例えば、A社がこれに従い、子会社B社を含める形で一般事業主行動計画を定めている場合は、B社が売却されたときは、一般事業主行動計画の目標の達成の見込みがなくなることも考えられます。その場合は、一般事業主行動計画を変更することが必要となるでしょう。また、もしB社を譲り受けたC社がグループ全体として一般事業主行動計画を定めていた場合、こちらも当該一般事業主行動計画の前提が異なってくることから、行動計画の変更をすることが考えられます[5]

 

[1] 常時雇用する労働者が300人未満の場合であっても、同条第7項において一般事業主行動計画の届出が努力義務となっています。

[2] 他方、一般事業主行動計画が届出済の会社が合併消滅会社となる場合、どのような手続きが必要かは必ずしも法律上明確ではありません。

[3] http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/kaishakujikou_4.pdf

[4] 「グループ内の雇用管理が一体的になされている」とは、 採用から配置・育成、登用に至るまでをグループ全体で行っていることを意味すると状況把握、情報公表、認定基準等における解釈事項について問33で記載されている。

[5] 子会社譲渡により一般事業主行動計画の対象外となった労働者に関して対象外となったことにより何らかの不利益が生じた場合は、労働法制に従い不利益変更の妥当性が問題になることも考えられることから、一般事業主行動計画の対象外となった労働者に対してどのような対応をするのかはM&A検討時に検討しておく必要があるものと考えます。

移籍の御報告

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御報告が遅くなりましたが、今月から、King & Wood Mallesons法律事務所・外国法共同事業という法律事務所へパートナーとして移籍しました。

M&A、資金調達からベンチャー支援まで、これまで行ってきた業務は引き続き力を入れ、またクロスボーダー取引において強みを発揮できると思います。初心にかえり、頑張りたいと思います!

ちなみに、King & Wood Mallesons(http://www.kwm.com/en/)は、アジア太平洋、欧州、北米、中東地域の16か国にオフィスをもつインターナショナルファームです。これまで日本では、金杜外国法事務弁護士事務所として日本企業のアウトバウンド投資などのサービスを提供していましたが、今般、私を含む5人の弁護士が参加し、King & Wood Mallesons法律事務所・外国法共同事業として、日本法のサービスも提供できる体制として新たなスタートを切ることになりました。

採用活動中ですので、もし周りにアジアを中心に世界で活躍したい弁護士さんがいらっしゃったら、ご連絡ください!

秋のベンチャー企業及びVC向け無料法律相談やります。

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ベンチャー企業及びベンチャー・キャピタル向け無料法律相談を実施します。今回は、ベンチャー企業については、M&A、資本業務提携及び資金調達関連のご相談を、ベンチャー・キャピタルについては、ファンド関連契約及び金商法の適格機関投資家特例業務関係のご相談(事業報告書、プロ成り書面その他金商法上の書面作成を含みます。)を対象とさせていただきます。

実施期間は、11月22日(火)から11月28日(月)の1週間です(ただし、土・日・祝日は除きます。)。予約制となりますので、ご希望の方は、弁護士佐藤有紀(info.tokyo@namura-law.jp) 宛に下記のフォームに従ってメールでご連絡下さい。虎ノ門又は丸の内にお越しいただく形となります。ご相談は、30分から1時間程度の面談による相談とさせていただきます。 

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1.会社名及び氏名:

2.住所:

3.電話番号:

4.会社及び業務の概要(ごく簡単にで結構です):

5.相談の概要:

6.相談希望日時(なるべく幅を持たせて下さい):

 

第1希望:

第2希望:

第3希望:

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We will have a free legal consultation for start-ups on M&A, capital alliance and equity/debt financing and venture capitals on a fund documentation and necessary documents to be filed with the FSA/ to be provided to investors under the Financial Instruments and Exchange Act from 22nd to 28th day of November (excluding 23rd, a national holiday of Japan).  For booking, please contact Yuki Sato at info.tokyo@namura-law.jp with the information below. You will have 30min to 60min at my office in Toranomon or Marunouchi. Sorry but we do not provide e-mail or telephone consultation on legal matters.

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1.Company name and your name:

2.Address:

3.Tel:

4.Outline of your business:

5.Your question/concern:

6.Preferred dates and times:

 

First choice:

Second choice:

Third choice:

For those who are interested in expanding their Japan business through M&A, please also refer to my power point slides.

www.slideshare.net

SGXにおける複数議決権株式の上場

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本日は複数議決権株式(通常は1株あたり1個の議決権が与えられるが、複数の議決権が与えられる場合)について取り上げてみたいと思います。日本の会社法では、種類株の1つとしての複数議決権株式は認められていません。

この点シンガポールでは、今年1月のシンガポール会社法の改正によって、1株1議決権とする規制が排除され複数議決権が認められました。これを受けて、シンガポール証券取引所(SGX)のThe Listings Advisory Committee (“LAC”)は、いわゆるDual Class share (DCS)structuresの上場に賛成する旨を表明しました(http://www.sgx.com/wps/wcm/connect/b9f773a8-d2b0-4920-8466-6bf021df5332/SGX+Listing+Advisory+Committee+Report+FY2016.pdf?MOD=AJPERES&CACHEID=b9f773a8-d2b0-4920-8466-6bf021df5332)。

DCS structuresでは、例えばA種株式1株には1議決権を与え、B種株式1株には2議決権を与えるようなストラクチャーが考えられます。この場合、創業者はB種株式を保有し、一般株主にはA種株式を募集・売出することによって、相対的に少ない投資額で会社の支配権を維持する形にすることができます。

もっとも、DCS structuresを何らの制限もなく設計することができるようにすると一般株主の利益を害する恐れがあることから、LACは、SGXがDCS structuresを認めるとしても、上場申請を行う会社について、業種、サイズ、事業運営の実績、sophisticated investorsからの資金調達等の要素を含め総合的な評価を行うこととしています。

また、議決権の集中・固定化を最小化するため、以下のような制限を加えることを示唆しています。

  1.  1株あたりの議決権数の差が最大10倍までとする。
  2.  上場後の各種類株式の割合を変更することとなる複数議決権株の増資を禁止する。また、現状1株1議決権となっている会社がDCS structuresとなるような増資は禁止する。
  3.  創業者等による複数議決権株の売却、役員からの退任等の一定の条件により自動的に普通株式に転換する仕組みを入れる。

また、少数株主を害して会社から利益を不当に得る事態を防ぐため、

  1.  取締役会、指名委員会、報酬委員会及び監査委員会について、取締役会の独立や委員会設置に関するコーポレートガバナンスコードに従うこと
  2.  普通株主が独立取締役を選ぶ場合、複数議決権株主が議決権を行使できない仕組みとすること

を求めています。

さらに、DCS structuresを採用する場合の、株主の権利がどのようなものであるか等の情報開示の徹底が求められます。これによって、一般株主の利益にも配慮しているわけです。SGXはDCS structure採用により、より多くのhigh-quality companyのSGXでの上場につながると考えているとのことです。今後DCS structureを使った会社が上場することになるのか見守りたいと思います。

あと、話変わりますが、先日米国向けに日本でのM&Aに関するセミナーをしましたが、その時のスライドをSlide Shareに入れておりますのでよろしくお願い申し上げます。

www.slideshare.net