SatoYuki-Yuki Sato's Law Blog-

Partner, Attorney at Law admitted in Japan and New York. My areas of practice include M&A, corporate laws, investment funds as well as capital markets.

会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律施行規則等の改正等

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本日は、本年9月1日から施行された、M&A(会社分割、事業譲渡、合併)における労働契約のあり方について定めた、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律施行規則」(「承継法施行規則」)等の改正等について概説します。

 1. 承継法施行規則等の改正等

会社によるM&Aは、会社の事業規模の拡大、新規事業分野への進出等々の目的でなされますが、労働者側からすると雇用関係に与える影響が少なくないため、これまで、労働関連法令に加えて、会社分割においては「会社分割に伴う労働契約の承継に関する法律」(「承継法」)及び「分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針」(「承継法指針」)により、労働者保護のための必要な手続き等が定められています。

今般、会社法等の法整備の状況や、組織の変動にかかる裁判例の蓄積等を踏まえ、労働者保護の観点から一定の対処が必要な事項が生じているとした、組織の変動に伴う労働関係に関する対応方策検討会報告書(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000121228.pdf)が出され、これを踏まえ、承継法施行規則や承継法指針が改正され今月1日から施行、適用されています。

また、事業譲渡及び合併については、上記報告書の内容を踏まえ、会社が留意すべき事項を示した事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針(「事業譲渡等指針」)が新たに策定され、今月1日から適用が始まっています。

2. 改正等内容

(1)   承継法施行規則の改正

会社分割の際の労働者への通知事項(施行規則第1条)として、労働者の労働契約が承継会社等(承継会社及び新設会社)に承継される場合には、労働条件はそのまま維持されることを通知することが盛り込まれました(同第1条第2号)。

(2)   承継法指針の改正

従前、承継される事業に主として従事する労働者との労働契約を会社分割によって承継会社に承継させるのではなく、いわゆる転籍合意に基づき承継会社に転籍させる場合には、承継法で定められた通知(承継法第2条)や、労働契約が承継されないことへの異議申立手続(承継法第4条)等が法律の文言上は適用されない形となっていました(転籍によって、承継法上の手続を取らないケースも相当数あったのではないかと思います。)。 

今般、このような転籍による場合にも、承継法上の通知や、商法等改正法附則第5条で義務付けられた協議等の手続きは省略できないことが承継法指針上明文化されました。

なお、承継される事業に主として従事する労働者が、分割会社との労働契約を維持したまま、承継会社等との間で新たに労働契約を締結し出向する場合でも、通知及び協議等の手続が必要であることも明文化されました。

また、商法等改正法附則第5条の協議等の対象となる労働者として、承継される事業に従事していない労働者であって分割契約等にそのものが当該分割会社との間で締結している労働契約を承継会社等が承継する旨の定めのあるものも含まれることとなりました。なお、当該協議の内容として、効力発生日以後における分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項も含まれることとなりました。

そして、承継される事業に主として従事する労働者に対して、分割契約等に承継会社等が当該労働者の労働契約を承継する旨の定めがある場合には、分割会社との間で締結している労働契約は、分割会社から承継会社等に包括的に承継されるため、その内容である労働条件はそのまま維持されること、及び当該労働者の労働契約を承継する旨の定めがない場合には、承継法第4条第1項の異議の申出をすることができることを当該労働者に対して説明することが求められることとなりました。これに対して、当該労働者が分割契約等に承継会社等が当該労働者の労働契約を承継する旨の定めのないことにつき、承継法第4条第1項の異議の申出をした場合には、同条第4項の規定に基づき、当該労働者が分割会社との間で締結している労働契約がその内容である労働条件を維持したまま承継会社等に承継されることとなり、これに反する転籍部分は、無効となることを留意するよう明文化されました。

これ以外に、企業年金の取扱いについてもかなり詳細な説明がなされています。

(3)   事業譲渡等指針の新設

会社が、事業譲渡を行い、当該事業に従事する労働者の労働契約を事業譲渡先に承継させようとする場合、契約上の地位の譲渡ということになりますので、労働者の個別の承諾が必要となります。事業譲渡等指針は、この労働者の承諾を得る上での事前の協議等を経て適切に行うよう、会社が留意すべき事項が定められました。

これにより、労働承継を伴う事業譲渡のとき手続き的にチェックすることが増えましたのでアドバイザーとしても留意が必要かと思います。

株式会社セブン&アイ・ホールディングスによる株式会社ニッセンホールディングスの完全子会社化

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今月2日に、株式会社セブン&アイ・ホールディングス(「7&iHD」)による株式会社ニッセンホールディングス(「ニッセン」)の完全子会社化が発表されました(http://www.7andi.com/dbps_data/_material_/localhost/ja/release_pdf/20160802_01.pdf)。

今回の完全子会社化は株式交換によりますが、この結果、ニッセンが7&iHDの直接の完全子会社になるのではなく、7&iHDの孫会社(7&iHDの完全子会社である株式会社セブン&アイ・ネットメディアの完全子会社)となります。一般的に、株式交換の対価として完全親会社となる会社(今回で言えば株式会社セブン&アイ・メディア)の株式が、完全子会社となる会社(今回で言えばニッセン)の株主に渡されることになり、完全子会社となる会社の既存の株主は完全親会社となる会社の株主にその立場を変えることになります。今回は株式交換の対価として、ニッセンの株主に、株式会社セブン&アイ・メディアの株式ではなくその親会社である7&iHDの株式が渡された点が特徴といえるでしょう[1]

プレスリリースによりますと、三角株式交換を採用した理由は、

「本株式交換の目的を実現するとともに、株式交換完全子会社であるニッセンホールディング スの株主の皆様に対して割り当てられる株式交換の対価の流動性を確保し、ニッセンホールディングスの株主の皆様に対し本株式交換によるシナジーの利益を提供するとの観点から、本株式交換については、いわゆる「三角株式交換」の方法によるものとし、本株式交換の対価としては、セブン&アイ・ ネットメディアの株式ではなく、セブン&アイ・ネットメディアの完全親会社であるセブン&アイ・ ホールディングスの普通株式を割り当てることといたします。」

とのことです。

ところで、我が国の会社法上、株式交換の対価は、完全親会社となる会社から渡される必要があります。そのため、株式会社セブン&アイ・メディアが一旦7&iHDの株式を保有している必要がありますが、我が国の会社法では、子会社による親会社株式の取得は原則として禁止されています(会社法第135条第1項)。そこで、三角株式交換を可能とするために、会社法第135条第1項の例外として、株式交換等の対価に用いるための親会社株式の取得を許している会社法第800条第1項[2]を根拠として、株式会社セブン&アイ・メディアは7&iHDの株式を今回の株式交換のために市場から調達をしています。つまり、株式交換を利用し現金ではなく株式を完全子会社となる会社の株主に渡しているものの金銭の出損を伴っている点が三角株式交換の特徴的と言えそうです。プレスリリース上も以下のような記載がなされております。

セブン&アイ・ネットメディアは、本株式交換により交付するセブン&アイ・ホールディ ングスの普通株式については、平成28年8月3日~同年8月31 日の期間において、514,300株を上限として、株式市場からの買付けにより、取得する予定です。なお、当該セブン&アイ・ホールディングス普通株式の取得については、平成 26 年4月1日に日本取引所自主規制法人が公表した「自己株式取得に関するガイドライン」に準じた手続により、買付けを行うことを予定しております。また、その取得資金は、セブン&アイ・ホールディングスの完全子会社である株式会社セブン&アイ・フィナンシャルセンターからの借入れにより調達 する予定です。」

 なお、7&iHDの株式を市場から取得するための資金源は、兄弟会社(株式会社セブン&アイ・フィナンシャルセンター)からの借入しております。

(追記)

9月14日に、三菱ケミカルHDの完全子会社である三菱化学と日本化成との間で三菱ケミカルHD株を交換対価とする三角株式交換のプレスリリースがありました(http://www.mitsubishichem-hd.co.jp/news_release/pdf/00459/00519.pdf)。三角株式交換を採用した理由は、

「本株式交換の目的を実現するとともに、(i) 非上場企業である三菱化学普通株式を対価とした 場合には、日本化成の少数株主の皆様が流動性の低い株式を取得することになること、(ii) 現金ではなく、 三菱ケミカルホールディングス普通株式を対価として交付することにより、日本化成の少数株主の皆様に 本株式交換によるシナジーの共有機会を提供できること、(iii) 三菱ケミカルホールディングスグループと して、三菱ケミカルホールディングス及び三菱化学間の 100%親子会社の関係を維持する必要性があること 等を勘案し、本株式交換の対価としては、三菱化学の株式ではなく、三菱化学の完全親会社である三菱ケミ カルホールディングスの普通株式を割り当てることといたします。」

 とのことです。また、三菱化学が親会社である三菱ケミカルHDの普通株式を取得する方法は、決定次第別途公表とのことです。

[1] このスキームは、いわゆる三角株式交換と呼ばれます。

[2] 「第百三十五条第一項の規定にかかわらず、吸収合併消滅株式会社若しくは株式交換完全子会社の株主、吸収合併消滅持分会社の社員又は吸収分割会社(以下この項において「消滅会社等の株主等」という。)に対して交付する金銭等の全部又は一部が存続株式会社等の親会社株式(同条第一項に規定する親会社株式をいう。以下この条において同じ。)である場合には、当該存続株式会社等は、吸収合併等に際して消滅会社等の株主等に対して交付する当該親会社株式の総数を超えない範囲において当該親会社株式を取得することができる。」とされています。今回で言えば、株式交換完全子会社の株主がニッセンの株主に該当し、存続株式会社等が株式会社セブン&アイ・ネットメディアに該当し、親会社株式が7&iHDの株式に該当します。

最高裁平成28年7月1日決定(株式取得価格決定に対する抗告許可決定に対する許可抗告事件)について

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最高裁平成28年7月1日決定(株式取得価格決定に対する抗告許可決定に対する許可抗告事件。以下「本決定」といいます。)が7月4日に公表されました。本決定は、上場廃止を目的とするMBOや上場子会社の完全子会社化を目的とするいわゆる二段階買収[1]が採られる際の全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定に関する最高裁の判断であり、実務にも大きな影響を与えるものと思われます。

平成26年会社法改正前においては、MBOや上場子会社の完全子会社化を行う場合、①公開買付けを行った後、②普通株式を全部取得条項付種類株式に変更し、全部取得条項を行使し公開買付けに応じなかった少数株主に対して対価として金銭を交付することにより少数株主をスクイーズ・アウトする手法が一般的に採用されていました。

本決定は、この②で行われる全部取得条項付種類株式の取得価格が①で行われる公開買付けによる買付価格(以下「公開買付価格」といいます。)と同額であるのに対して、少数株主が会社法第172条第1項に基づき[2]取得価格の決定の申し立てをした事案に対する最高裁としての判断です。

原審は、公開買付け公表時においては、公開買付価格は公正な価格であったと認められるものの、その後の各種の株価指数が上昇傾向にあったことなどからすると、取得日までの市場全体の株価の動向を考慮した補正をするなどして全部取得条項付種類株式の取得価格を算定すべきであり、第1段階の公開買付価格を取得価格として採用することはできないとしました(結論として、公開買付価格は12万3,000円であったのに対し、取得価格として13万0206円としました)。

これに対して、最高裁は、「多数株主が株式会社の株式等の公開買付けを行い、その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし、当該株式会社が同株式の全部を取得する取引において、独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ、公開買付けに応募しなかった株主の保有する上記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記公開買付けが行われ、その後に当該株式会社が上記買付け等の価格と同額で全部取得条項付種類株式を取得した場合には、上記取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り、裁判所は、上記株式の取得価格を上記買付けにおける買付け等の価格と同額とするのが相当である。」と判断しました。

最高裁としては、(1)会社の意思決定過程の恣意性を排除する措置が講じられており、(2)第1段階の公開買付価格と第2段階における取得価格が同額である旨が公開買付届出書や適時開示資料によって開示されている場合、原則として、第1段階の公開買付けによる買付価格と第2段階における取得価格が同額であることが相当としています。理由としては、上場廃止を目的とするいわゆるMBOや上場子会社の完全子会社化といったディールにおいては、第1段階の公開買付価格は「全部取得条項付種類株式の取得日までの期間はある程度予測可能」であり、取得日までに生ずる株式取引市場の「一般的な価格変動についても織り込んだ上で定められている」ことが挙げられています。

MBOや上場子会社の完全子会社化といったディールでは、多数株主又は会社と少数株主の間に利益相反関係が存在することになりますが、本決定によれば、独立した第三者委員会や弁護士等の専門家の意見を聴くなど公開買付け(とそれに続く少数株主のスクイーズ・アウト)の過程・手続が公正であれば、裁判所が実体的に価格を算定することは行わずに公開買付価格と同額であることをもって相当とするという立場最高裁が採用したものと評価することができるでしょう。今後は、少数株主による会社法第172条第1項に基づく取得価格の決定の申し立てが行われる可能性は低くなったのではないかと思われます。

もっとも、本決定はあくまで、全部取得付条項種類株式に関する会社法第172条第1項の取得価格の決定についての判断であり、平成26年会社法改正後においてスクイーズ・アウトの手段として利用されるようになった株式併合や特別支配株主による株式等売渡請求における価格決定の申立においても、本決定と同様の判断がなされるかは別途の検討が必要である点を付け加えさせていただきます。

 

[1] 第一段階として公開買付けを行い第二段階として公開買付けに応じなかった株主をスクイーズ・アウトすること

[2] ①全部取得条項付株式の取得に反対する旨を会社に通知しかつ株主総会において反対した株主及び②議決権を行使することができない株主は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、取得の価格の決定の申立てをすることができるとされます(会社法第172条第1項)。

春のベンチャー企業及びVC向け無料法律相談やります。

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ベンチャー企業及びベンチャーキャピタル向け無料法律相談を実施します。今回は、ベンチャー企業については、M&A、投資及び資金調達関連のご相談を、ベンチャー・キャピタルについては、ファンド関連契約及び金商法適格機関投資家特例業務関係のご相談(事業報告書、プロ成り書面その他金商法上の書面作成を含みます。)を対象とさせていただきます。
実施期間は、5月16日(月)から5月27日(金)の2週間です。予約制となりますので、ご希望の方は、info.tokyo@namura-law.jp 宛に下記のフォームに従ってメールでご連絡下さい。虎ノ門又は丸の内にお越しいただく形となります。ご相談は、30分から1時間程度の面談による相談とさせていただきます。

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1.会社名及び氏名:

2.住所:

3.電話番号:

4.会社及び業務の概要(ごく簡単にで結構です):

5.相談の概要:

6.相談希望日時(なるべく幅を持たせて下さい):

第1希望:

第2希望:

第3希望:

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We will have a free legal consultation for start-ups on M&A and equity/debt financing and venture capitals on a fund documentation and necessary documents to be filed with the FSA/ to be provided to investors under the Financial Instrumens and Exchange Act from 16th to 27h day of May.  For booking, please contact Yuki Sato at info.tokyo@namura-law.jp with the information below. You will have 30min to 60min at my office in Toranomon or Marunouchi. Sorry but we do not provide e-mail or telephone consultation on legal matters.

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1.Company name and your name:

2.Address:

3.Tel:

4.Outline of your business:

5.Your question/concern:

6.Preferred dates and times:

First choice:

Second choice:

Third choice:

松屋グループの再編

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株式会社松屋(「松屋」)は、7 月 1 日を効力発生日として、完全子会社の株式会社リュド・ヴィンテージ目白(「目白」)を吸収合併するとのことです(http://ow.ly/10aCOr)。

目白は、1 月 14 日に松屋が開示した「子会社の会社分割および子会社の完全子会社化に関するお知らせ」(http://ow.ly/10aCWL)で記載の通り、4 月 1 日に、株式会社アターブル松屋から商号が変更されたばかりの会社です。なお、目白は4月1日に会社分割を行い、株式会社アターブル松屋(「新会社」)という別の会社が新設され、新会社の株式を株式会社アターブル松屋ホールディングス(「中間持株会社」ちなみに松屋の完全子会社ではなく少数株主が存在します。)を含む目白の株主に配当により譲渡(いわゆる人的分割)し、目白と新会社は、中間持株会社傘下の兄弟会社となるそうです。ただ、当該適時開示によれば、この新設分割と配当による人的分割と同時に、中間持株会社等全ての目白の株主が松屋に目白株式を譲渡し、目白は松屋の直接の完全子会社になるようです。そのため、今回の適時開示も「完全子会社」との間の吸収合併という記載となっております。

それにしても一旦法人格を残しておくようなスキームを行うことを開示しながら数ヶ月で法人格を消滅させるとはグループ再編が早いというか闇雲にやっているような印象を与えてしまいますね。

上場会社による転換権付優先株式の発行が募集に該当するとされた事例

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昨年もいろいろなニュースがありましたが、今日はこれを取り上げたいと思います。

グローバルアジアホールディングス株式会社(「GAHD」、ちなみにいろいろ名前を変えている会社だったりしますね…)の優先株式による第三者割当増資が、無届けの募集に該当するおそれがあると認められたことから、昨年8月7日に関東財務局からGAHDに対して警告書が出され(http://www.fsa.go.jp/news/27/sonota/20150807-3.html)、GAHDが第三者割当増資を中止したことがありました。

上場会社が、優先株式普通株式と別途発行する場合、有価証券届出書ではなく臨時報告書の提出で足りるのが原則である点は実務上よく知られた話ですが、その例外に該当する実例が出たわけです。警告書には具体的な理由は書いてないので推測ですが、企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)Ⅲ「株券等発行に係る第三者割当」の記載に関する取扱いガイドライン(1)審査対象 ④において、

「法第24条第1項各号のいずれかに該当する株券(以下④において「有報提出対象株券」という。)についての取得請求権が付されている種類株券が第三者割当により発行される場合であって、割当予定先又は発行体等の自由な裁量等により、短期間に有報提出対象株券の発行が相当程度見込まれるものについては、法第2条第3項第2号ハに規定する「多数のものに譲渡されるおそれが少ないもの」には該当しないものと考えられる。よって、今回、第三者割当の開示内容が改正されたことに鑑み、このような種類株券の取得勧誘について、臨時報告書を提出し、有価証券届出書の提出を回避しようとする者については、法令違反に該当する可能性があることから、有価証券届出書の必要性について入念に審査することに留意する。」

とされていることから、GAHDの優先株式が「割当予定先又は発行体等の自由な裁量等により、短期間に有報提出対象株券の発行が相当程度見込まれるもの」と判断されたものと考えられます。ちなみに、GAHDの優先株式は、転換権行使が発行から1年3ヶ月経過で無条件に可能であり、確かに1年3ヶ月は転換権行使不可の期間としては短い印象があります。

ちなみにGAHDは、内部管理体制に問題がある等により、その後上場廃止となっています。

いわゆるプロ向けファンドに関する金商法の改正について

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お久しぶりです。今日は、巷で騒がれている適格機関投資家等特例業務(プロ向けファンドと呼ぶ人もいます)について。

1. 今回の改正の経緯をおさらい

適格機関投資家等特例業務について、念のためおさらいすると、組合型ファンド(日本の投資事業有限責任組合民法上の組合、海外のLimited Partnershipなど)は、①その持分の取得勧誘(自己募集/私募)と、②組合財産の運用(自己運用)について、それぞれ第二種金融商品取引業投資運用業登録が必要なところ、適格機関投資家等を対象とするものについては、それぞれ登録ではなく届出(金商法63条)で足りるというものでした。「適格機関投資家」というのは、例えば、銀行、証券会社などの第一種金融商品取引業、有価証券残高が10億円といったプロがありますが、適格機関投資家「等」は、これに準じるものではなく、適格機関投資家以外の投資家を差し、49名以下の者であればOKとなっています(ただし、適格機関投資家以外の者から出資を受けている匿名組合営業者やSPCなど、一定の除外要件はあります)。

制度が整備されたのは、前述の①自己運用、②自己募集について原則として業登録が必要となった2007年の金商法成立からでした。近時、この制度を悪用する業者がいると指摘され、投資家の要件を厳格化する必要性が唱えられていました。つまり、適格機関投資家になって名前貸しをするような業者もいますので、そういう業者に頼んで適格機関投資家になってもらえば、適格機関投資家以外の投資家(49名以下であれば、例えば投資経験が乏しい個人に対しても)へアプローチして取得勧誘することができるわけです。

昨年、証券取引等監視委員会の建議及び消費者委員会の提言を受けて、特例業務に係る投資家要件を見直す政令・内閣府令案が公表されたこと、これに対して、独立系ベンチャーキャピタル有志等から反対意見が出されたことと、結局昨年8 月1 日に施行が予定されていた改正政令・内閣府令案の施行が見送られた経緯を覚えている方もいらっしゃるかと思います。その後、「投資運用等に関するワーキング・グループ」の審議を経て、今回の金商法、関連政令・内閣府令改正と至ったわけです。

2. 改正の概要

平成27年金商法と政省令の改正では、①適格機関投資家等の範囲の改正、②拒否要件の新設、③届出書への記載事項や添付書類の追加、④(登録金商業者向けの)行為規制の適用、⑤行政処分の対象化などがあります。と、プロ向けファンドの大きな改正になるわけですが、入口部分①についてまず見ていきたいと思います。

若干省略もありますが、主なものは以下のとおりです。 

改正前

改正後

適格機関投資家

適格機関投資家

適格機関投資家以外の者(49名以下、50人以上の適格機関投資家以外の者が保有することがないよう転売制限付き)

適格機関投資家以外の者であって、以下のいずれかの者(49名以下、50人以上の適格機関投資家以外の者が保有することがないよう転売制限付き)

① 国

② 日本銀行

③ 地方公共団体

④ 金融商品取引業者、登録金融機関

⑤ ファンド資産等運用業者(いわゆる自己募集(正確には私募)と自己運用を業として行う者)

⑥ (i)⑤の役員、従業員、(ii)⑤の親会社等、子会社等、(iii)⑤の運用委託先、(iv)⑤へ投資助言を行う者、(vi)(ii)~(iv)の役員、従業員、(v)⑤と(i)(iii)の親族

⑦ 上場会社

⑧ 資本金の額が5000万円以上の法人

⑨ 純資産額5000万円以上の法人

⑩ 特別の法律により特別の設立行為をもつて設立された法人

⑪ 特定目的会社

⑫ 資産100億円以上の企業年金基金

⑬ 外国法人

⑭ 資産1 億円以上かつ証券口座開設後1 年を経過した個人(業務執行組合員として保有する場合も)

⑮ 公益社団法人

⑯ 資産100億円以上の存続厚生年金基金

⑰ 資産100億円以上の外国の年金基金

⑱ 資産1億円以上の法人(業務執行組合員として保有する場合も)

⑲ ④⑦⑧⑨の子会社等又は関連会社等

⑳ 一定の資産管理会社

㉑ 一定の外国籍組合型ファンドの発行者

 

【一定のベンチャーキャピタルについては以下の者も追加】

(1) 上場会社の役員

(2) 資本金又は純資産額が5000万円以上の法人で有価証券報告書提出会社の役員

(3) 組合型ファンドの業務執行組合員(法人の場合)の役員

(4) 5年以内に(1)~(3)のいずれかに該当していた者

(5) 5年以内に(4)(5)に該当する者として、同じ発行者が発行する組合型ファンド持分を取得した者

(6) 5年以内に組合型ファンドの業務執行組合員だった者(法人の場合)

(7) 役員、従業員、業務委託先として、会社設立、一定の資金調達、新事業活動、合併等、新規上場、経営戦略策定等に通算1年以上関与して5年以内の者

(8) 有価証券届出書、有価証券報告書において、5年以内に、10位までの株主だった者

(9) 認定経営革新等支援機関

(10) (1)~(9)の個人が議決権の50%以上を保有している会社等(さらに子会社等と関連会社等も)と、議決権の20-50%以上を保有している会社等

ベンチャーキャピタルの場合については、結構幅広に拾われていますね。例えば、私も少なくとも(7)には入るのではないかと思います、笑。

3. 既存の業者についての経過措置

既に適格機関投資家等特例業務の届出を出して業務を行っている者についての経過措置については、これから確定することになります。

http://www.fsa.go.jp/news/27/syouken/20151120-3.html

但し、施行日より6か月以内に、「平成27年改正金商法、政令・内閣府令により追加された届出事項・添付書類を提出する必要」があるとされているので注意が必要です。今後このブログにも記載したいと思います。