SatoYuki-Yuki Sato's Law Blog-

Partner, Attorney at Law admitted in Japan and New York. My areas of practice include M&A, corporate laws, investment funds as well as capital markets.

オリジナル設計株式会社に対する創業家資産管理会社による公開買付け

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オリジナル設計株式会社の創業家の資産管理会社による、同社株式の公開買付と自社株公開買付の案件は、一見地味とはいえ、なかなか興味深いです。

資産管理会社の公開買付は、創業者からの株式の取得を目的としていますが、創業者は、公開買付者である資産管理会社の特別関係者に該当するものの、形式的特別関係者(買付者との間の資本関係又は親族関係等の形式的基準に基づき特別関係者となるもの)[1]ではなく、実質的特別関係者(買付者との間の合意という実質的基準に基づき特別関係者となるもの)[2]であるようです。

すなわち、創業者は、資産管理会社や資産管理会社の親会社の役員にはなっていないようです。そのため、公開買付規制の例外の一つとして設けられている「株券等の買付け等を行う者がその者の形式的特別関係者から行う株券等の買付け等」(金商法第27条の2第1項但書。買付け等を行う日以前1年間継続して形式的特別関係者の関係にある者からの買付け等は、支配関係に実質的な変化が生じることが少ないことから公開買付けによる必要はないと考えられています。)によることはできず、公開買付が強制されることになります。

もっとも、資産管理会社は「当社株式 553,000 株(所有割合:8.20%)を所有する当社の第2位の大株主」(https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/bdmunh/)であり、創業者は1,470,535 株(所有割合:21.81%)を保有しているに過ぎず、公開買付の上限も創業者の保有している株式数となっており、一見すると、株券等所有割合が公開買付後も約30%であり、いわゆる3分の1ルールに該当しないため公開買付けは不要と思われます。この点、開示資料によれば、当社による自己株式の取得にあわせて、創業者が所有する対象者株式を公開買付者に集約すること(「本件株式集約」)を実施することとしたことに伴い、

「当社の実施する本自己株公開買付けへの応募株式数によっては、結果として、本件株式集約及び本自己株公開買付けの実施後における公開買付者が有する当社株式の議決権の割合が3分の1を超える可能性があること(本自己株公開買付けにおける買付予定数の上限 (1,000,000 株)に相当する数の買付け等を行った場合、公開買付者の当社株式の議決権の割合は35.25%(小数点以下第三位を四捨五入)となります。)等を総合的に勘案し、公開買付者は、平成 30 年8月下旬に、株主間の平等及び取引の透明性を図る観点から、公開買付けの手法により、 本自己株公開買付けと同時に公表した上で本件株式集約を実施することが適切であると判断したとのことです。」

すなわち、同時に公表されている自社株公開買付と合わせて考えると資産管理会社の株券等所有割合が3分の1を超えるので3分の1ルールの適用があると考えるのが実質的に公開買付規制の趣旨に合致するため、形式的には公開買付は不要と判断できても公開買付のルールに基づいて株式を創業者から資産管理会社に移すということのようです。

また、開示資料によれば、対象会社と公開買付者の間で、本件株式集約と対象者が検討している自己株式の取得を実施するタイミングについて、協議を進めてきたとのことです。

おそらく、財務局等からの指導もありこのような公開買付を行うことになったと思いますが、公開買付をしても市場価格よりも安いいわゆるディスカウントTOBであるため、創業者以外の株主は公開買付に応募するとは考えにくい事案であり、本当に公開買付をするべき話であったのかは疑問が残るところではあります。

 

[1] 買付者が法人等である場合の形式的特別関係者としては、金融商品取引法施行令第9条第2項により、①買付者の役員、②買付者が特別資本関係を有する法人等及びその役員、③買付者に対して特別資本関係を有する個人並びに法人等及びその役員がこれに該当するとされています。

[2] 買付者との間で、①共同して株券等を取得又は譲渡すること、②共同して株券等の発行者の株主としての議決権等の権利を行使すること、③株券等の買付け等の後に相互に当該株券等を譲渡し、又は譲り受けることのいずれかを合意しているものがこれに該当します(金融商品取引法第27条の2第7項第2号)。

株式会社ADEKAによる日本農薬株式会社の公開買付と第三者割当増資の組み合わせによる子会社化

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株式会社ADEKA(「ADEKA」)が日本農薬株式会社(「日本農薬」)を公開買付と第三者割当増資を組み合わせて子会社化する(「本件取引」)という適時開示を先月21日に行いました(http://ow.ly/rHhT30m0jkE (「適時開示」))。

なお、報道によりますと本件に関しては日本農薬の外国人株主が反発しているようです(http://ow.ly/Cfhb30m0jm5)ので、ちょっとBlogに書いてみたいと思います。

本件取引の概要

ADEKAは、適時開示日現在、子会社を通じた間接保有分も含めて日本農薬普通株式を合計16,179,629株(所有割合24.21%。なお分母は発行済株式総数から自己株式を除いた数66,836,126株)保有しています。これを公開買付及び第三者割当増資を組み合わせて所有割合を51%まで引き上げるのが本件取引の目的です。

(1)   公開買付の概要

公開買付価格 普通株式1株につき900円

買付予定数の上限 12,056,049株(所有割合18.04%)

買付予定数の下限 7,667,952株(所有割合11.47%)

(2)   第三者割当増資の概要

払込価格 普通株1株につき670円

最低引受数 11,940,300株(既存保有数+買付数の上限と合計すると希薄化ベースで所有割合51%)

最大引受数 20,895,600株(既存保有数+買付数の下限と合計すると希薄化ベースで所有割合51%) 

本件取引では、公開買付で買付予定数の上限まで株式を取得できない場合に備えて、第三者割当増資により、ADEKAが取得する株式数を調整できるようになっています(トップアップオプション的な形。なお、トップアップオプションに関しては、http://ow.ly/t5pN30m0jo1も参照ください。)。

では、なぜこのようなスキームになったのかですが、日本農薬の適時開示によれば、

「当該連結子会社化の実現方法としては、当社と協議の上、 当社の資金需要にも応えるべく、公開買付けだけでなく、第三者割当増資により当社の資金調達を可能 とする方法を組み合わせることが望ましいとの結論に至ったとのことです。」(適時開示6頁参照)

とのことです。この記載からだと第三者割当増資だけでもよいような気もしますが、話の流れとしては、公開買付で買収で話をしていたが、日本農薬から資金調達もしたいという話がありこのようなスキームになったということだそうですが・・・・。

三者割当増資の目的

三者割当増資による資金調達に関しては、資金調達目的や他の資金調達手法を選択しなかった理由等を詳細に記載しなければなりません(どんどん厳しくなっています。)。仮に、第三者割当増資の全てをトップアップオプション的な使い方にしてしまうと、そもそも、第三者割当増資が資金調達目的でなされたのか、買収目的のための増資であり、いわゆる不公正発行に該当する増資ではなかったのかという疑問が生じること、仮に資金調達目的自体はあったと評価できても他の手段が選択しなかった合理的な理由を記載することに苦慮することから、本件のような一部の第三者割当増資は確実に行う手法を採用せざるを得なかったのではないかという気がしています。

資金調達目的に関しては、適時開示14頁に詳細に記載がされていますが、仮に公開買付で買付予定数の上限まで普通株式を取得することができた場合、約80億円しか資金調達できませんが、その場合どうするのかについては、

「本第三者割当増資は、本公開買付けとの組合せにより、ADEKAによる当社の連結子会社化(以下「本連結子会社化」といいます。)を実現するための取引の一環という側面も有しており、上記「1.募集の概要(注)2」に記載のとおり、ADEKAが引き受けた募集株式の一部について払込みのない可能性があり、その際には差引手取概算額が減額されることになり、本公開買付けにおける応募株券等の総数が買付予定数の上限(12,056,049 株)に達した場合、本第三者割当増資による払込金額の総額は 80 億円になります。なお、当該払込金額の総額は、今後の研究開発資金及び設備投資資金として、少なくとも約80 億円の資金需要があると判断し、ADEKAと合意の上、当該資金需要を満たすために本公開買付けにおける買付予定数の上限を設定したことによります。上記のとおり差引手取概算額が減額される場合の投資に係る施策に関しては、金融機関等からの借入れ等によって実施して参る予定です。なお、本第三者割当増資により調達する資金については、上記に記載する使途の支出時期が到来したものより充当してまいります。なお、調達資金を実際に支出するまでは、銀行口座にて管理いたします。」

とのことですので、金融機関等からローンで最大60億円程度借り入れるようです。

米国人投資家の主張について

米国人投資家は、670円で株式を取得しており、「株主を平等に扱うなら応募分を全て900円で買うべきだ。安く支配権を手に入れるために少数株主の権利を不当に害している」(http://ow.ly/xGpD30m0jpo)との主張のようですが、引受価格670円と公開買付価格900円が異なる点に関しては適時開示15頁で

「なお、本払込金額は 670 円であるところ、本公開買付けの買付価格は1株 900 円であり、本払込金額 (上記決議日の直前取引日の終値)と比較してプレミアムが付されています。このプレミアムは、本連結子会社化によって生じうるシナジーをあらかじめ分配するものと捉えられますが、本取引では、本公開買付け後にスクイズアウトを行うことは想定されておらず、当社株式は引き続き上場が維持される予定です。そのため、本取引では、株主の皆様にとっては、本公開買付けに応募しないで当社の株主として残ることを選択することが可能であり、そのような選択をされる株主の皆様は、本取引の実行後も引き続き、公開買付者たるADEKAと同様に、その持株比率に応じてシナジーを享受することが可能です。他方で、当社株主として残るという選択をせず、本公開買付けに応募する株主の皆様は、将来のシナジーを享受する機会を喪失することになります。そのため、本公開買付けの買付価格にのみプレミアムを付すことには合理性が認められると考えております。」

と説明しています。過去の公開買付及び第三者割当増資の議論からすれば、このような説明になろうかと思います。また実際、議決権ベースで51%の株式を取得するために公開買付で51%になるまで全部公開買付で900円で取得しようとすると、必要な資金は66,836,126株の51%からADEKAが既に保有している株式数を控除した数に900円を乗じた金額で161億1611万5734円ですので、公開買付と第三者割当増資を組み合わせて51%取得するために必要な資金(①買付予定数の上限に達した場合、公開買付で108億5044万4100円、増資で80億1000円で合計188億5044万5100円を要し、②買付予定数の下限の場合、公開買付で69億115万6800円、増資で140億5万2000円で合計209億120万8800円を要することになります。第三者割当増資だと分母となる発行済株式総数が増えるわけですね。)よりも少なくて済むので本件取引は「安く支配権を手に入れる」スキームではないのは明らかだと思います[1]日本農薬を全て公開買付で子会社化するよりも高額となるスキームであることをむしろADEKAの株主に説明する方がハードルが高いように思います。

 

[1] 一点気になるとすれば、900円という公開買付価格を自ら設定しておき、株価が900円に寄ることが想像されるにもかかわらず(実際は、全部買付ではないので買付期間の最終日の終値は811円。なお、買付予定数の上限に達する応募がありました。)、第三者割当増資によって1株当たり670円で株式を手に入れるのは、公開買付で取得した株式の取得価格と加重平均したとしても、一株約785.6円(仮に、買付予定数の下限の場合一株約731.7円)で取得することになるので、株式という有価証券の市場価格をADEKA自らが釣り上げておきながら、市場価格よりも安く株式を手に入れているという批判はありうるところだと思います。ただ、公開買付期間が終わった後、株価が811円を維持することは難しいことからこちらの批判もあまり成り立ちえないような気がしています(なお、実際に、27日現在779円と785.6円を下回っています。)。

 

Vtuberが定時株主総会における計算書類の報告、事業報告の内容の報告をしたら

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先日、グリー株式会社が、2018年6月期第4四半期の決算説明会で子会社のWright Flyer Live Entertainment社のバーチャルYouTuberVTuber)「いそら真実(まなみ)」さんを登壇させ、冒頭5分ほどのエグゼクティブサマリ(FY18の実績、FY19事業方針の概要)を説明させたとのニュースが流れました(https://www.moguravr.com/gree-vtuber-earnings-announcement/)。

この調子ですと、Vtuber関連の上場会社であれば、定時株主総会における計算書類の報告、事業報告の内容の報告も、VTuberが行うという演出がなされるようになるかもしれませんね。

会社法では、事業報告の内容の報告に関して、同法第438条第3項で、「取締役は、第一項の規定により提出され、又は提供された事業報告の内容を定時株主総会に報告しなければならない。」とされており、また、計算書類の報告に関して、同法第439条第2文で、「取締役は、当該計算書類の内容を定時株主総会に報告しなければならない。」[1]とされており、これに従って、取締役が株主総会で報告を行うことになります。

この事業報告等は、伝統的には、議長が、株主総会の招集通知記載の内容をただ読み上げるという手法によりなされていましたが、もっとも、これでは、株主が眠くなってしまいます。近時では、株主総会をIR活動の一環として、会社の事業内容を十分に説明し、株主に理解してもらうべく、ビジュアル化が進んでいます。

株主総会白書 2017年版 -コード対応の定着から深化へ-(旬刊商事法務2151号・51頁、公益社団法人商事法務研究会)によれば、総会のビジュアル化実施状況は、実施していない会社が12.5%、実施している会社が約87.3%と9割近くに上るとされています。

ビジュアル化のうち、主なものとしては、スライド等を映写する方法(ナレーションを組み合わせることも)や、ビデオを上映する方法(ナレーションを組み合わせることも)が挙げられます。具体的には、「スライドまたはプロジェクターと合わせてナレーションを利用」している会社が全体の46.7%、「ビデオ上映と合わせてナレーションを実施」している会社が全体の14.2%となっています。ナレーションを組み合わせるというのは、議長が読み上げることによる議長の負担軽減になるとともに、ナレーターの方が声が聞き取りやすいといった事情もあるようです。但し、ナレーターの場合は直前に内容を変更することができないので、計画的に進めなければなりません。

Vtuberからの事業報告となると、まなみさんって誰!?何の権限で報告しているの!?というようにも思いますが、あくまで演出上のものであり、法的にはしっかり責任をもって取締役が報告しているということになります。法的には特段真新しい話ではないものの企業の特長を株主に伝える一つの手段となっていく可能性があるのではないかと思います[2]

なお、私が社外役員を務めているキャラクターを用いたプロモーションやブランディング施策などを行っている会社でも、株主総会では、代表的なキャラクターが事業報告を行っていて、キャラクターの声にちょっとびっくりしましたが、分かりやすくメリハリが利いた発表になっているように思います。

 

[1] 連結計算書類に関しては、会社法第444条第7項柱書第2文参照。

[2] 仮にグリーが定時株主総会でいそら真実さんに定時株主総会における計算書類の報告、事業報告の内容の報告をさせる場合、子会社のVtuberということなので、子会社に報告業務を業務委託するという立て付けになりますが、この辺りはプロのナレーターに業務を委託するのと同じになるかと思います。

M&A等におけるデュー・ディリジェンスに伴う個人データの相手方への提供について

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あっという間に法務アドベントカレンダーの時期がやってきました。1年はあっという間です。

昨年から本年は、大改正があったことで関心が高まった個人情報保護法(本年5月30日から完全施行。以下「法」)に関連する執筆に複数携わらせていただきました。

「クロスボーダーのM&Aプロセスにおける個人情報の保護と利活用」(ow.ly/9bqF30hpvDa) 

個人情報保護法相談標準ハンドブック」(ow.ly/HUlO30hpvGk) 

本日はその中で、気になっている(自分の中で腹落ちしていない)ことの1つ、M&Aや投資におけるデュー・ディリジェンスの場面での個人情報[1]の取扱いに触れたいと思います。

1.個人データの第三者提供の原則と例外

個人情報取扱事業者[2]が個人データ[3]を第三者に提供する際には、原則として本人の事前の同意を必要[4]となりますが、以下の場合には、本人の事前の同意を得ることなく、個人データを第三者に提供することができることとされています。個人情報の主体である本人の権利・利益と、個人情報の有用性、利便性のバランスを取ったものです。

まずは、法第23条第1項各号の場合ですね。

① 法令に定める場合

② 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

③ 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

④ 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

それから、

⑤ いわゆるオプトアウトによる場合(本人の求めに応じて個人データの第三者への提供を停止することとしている場合であって、所定の事項につき、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置くとともに、個人情報保護委員会に届け出たとき[5])(法第23条第2項)

さらに、以下の場合は、当該個人データの提供を受けた者は「第三者」に該当しないこととなります。この場合、確認・記録義務(法第25条、第26条)も不要となります。

⑥ 個人データの取扱いの委託による場合(法第23条第5項第1号)

⑦ 合併その他の事由による事業の承継による場合(同第2号)

⑧ 共同利用による場合(同第3号)

以上の例外事由に該当する場合は、本人の事前の同意を得ることなく、個人データを第三者に提供することができることとされています。

2. デュー・ディリジェンスに伴う個人データの相手方への提供

以上の8つの例外事由のうち、M&Aの場面で最初に思いつく例外事由は、⑦合併その他の事由による事業の承継による場合ですが、そもそもM&Aの前段階となるデュー・ディリジェンスの段階では、合併も事業の承継も行われておらず、⑦の例外に文言上該当しないのではないかという疑問が生じますが、この点、合併先又は事業の承継先候補者に個人データの提供をすることも「合併その他の事由による事業の承継による場合」に該当するものと考えられます。もっとも、「利用目的及び取扱方法、漏えい等が発生した場合の措置、事業承継の交渉が不調となった場合の措置等、相手会社に安全管理措置を遵守させるために必要な契約」を締結することが必要となります(個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)52頁)[6]

そのため、M&Aの前段階となるデュー・ディリジェンスの段階であっても本人の事前の同意を得ることなく、個人データを第三者に提供しうることになります。

3. M&Aのスキームと個人データの相手方への提供の可否

M&Aの前段階となるデュー・ディリジェンスの段階であっても、個人データの提供が認められるとしても、そもそも、M&Aの手法はいくつかあり、全ての手法が「合併その他の事由による事業の承継」に該当するわけではないのではないかという疑問があります。会社の合併や事業承継は当然「事業の承継」に該当しますが、事業会社やファンド(以下「投資家」)が、対象会社を子会社化すべく株式の譲渡[7]を受けたり、あるいは完全買収ではなく(大)株主となったりする場合、「合併その他の事由による事業の承継に伴って、個人データが提供される場合」ないしこれに準じて、本人の承諾なしに個人データを投資家に提供することは認められるでしょうか。

この点、結論から言うと株式の譲渡を受ける場合に伴い、個人データが提供されるときは、「事業の承継」に伴う第三者提供の例外にはあたらず、原則どおり本人の同意が必要と解さざるを得ないでしょう。

事業の承継がなされないのであれば、本人の承諾なしに個人データを第三者提供させる必要がないでしょうということなのでしょうね。実際、個人情報が塗りつぶされた形で開示されることもあります(その方が受領側も管理の負担が軽くなりますし)。

ただ、株主名簿の個人情報(氏名や住所)はどうなのでしょうか?投資家は、株主名簿を確認した後、当該株主について反社会的勢力(対象会社がベンチャー企業であり投資後上場が想定されるといった場合では反市場勢力でないかも)チェックすることになるでしょうから、塗りつぶすわけにいきません。本人の承諾を取ることも難しいでしょうし…。

そうなると、

(1) 本人の同意をとる

(2) 個人データの取扱いの事務を委託している(とこじつける構成する)

(3) 合併その他事業の承継に伴って提供される(とこじつける構成する)

(4) 財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき(と構成する)

のいずれかになるのでしょうか。

(2)委託又は(3)事業の承継というのもありうるかと考えたのは、個人情報保護委員会が公表する改正法に関するQ&Aで、金融機関からの債権の買取りの入札に関する事案において、質問自体は、確認・記録義務に関するものですが、譲渡対象債権のデュー・デリジェンスを行って入札価格を提示したものの、落札に至らなかったために、守秘義務契約に基づき当該データを速やかに削除する場合には、「その提供の形態は実質的に委託又は事業承継に類似するものと認められ」るとして、「その他確認・記録義務を課すべき特段の事情」がなければ、確認・記録義務の対象にはならないと説明されていることから可能性もありうるかと考えました。

(1)同意を取るのは正面突破ですね。投資について説明しないといけないような場合(同意なしに投資を受けることが禁止されるような株主間契約が存在する場合)は、その際に対象会社から話をしてもらうのでしょう。

それが難しいような場合であれば、(4)財産保護のために必要で本人の同意を得ることが困難な場合、に当てはまるかどうかでしょうか。「人の同意を得ることが困難であるとき」とは、物理的に同意を得がたい場合に限られず、悪質なクレーマーであることの情報のように本人が同意することが社会通念上期待しがたい場合等も含みますので、場合によっては該当しそうな気もします。そんな株主がいるような会社に投資するのは嫌ですが・・・

なお、1株でも持っていれば、株主として株主名簿閲覧請求権(会社法第125条第2項)として認められますね。また、M&A完了後に、上述した共同利用の形をとって対象会社が取得した個人データの提供を受けることも考えられます[8]

いずれにせよ、株式の譲渡を受ける場合など、「事業の承継」に該当しない場合には、個人データの提供にあたり本人の同意を求められる可能性が高いことになります。また、個人データの提供を受けた第三者として確認・記録義務(法第25条、第26条)が生じることになります。

以上のとおり、株式譲渡によるM&Aや第三者割当増資による出資にかかるデュー・ディリジェンスは、「事業の承継」に該当するM&Aにかかるデュー・ディリジェンスとは異なる規制が生じるため留意が必要です。上記の話でいえば、株主名簿の提供等は株主の同意が必要となり[9]、同意の取得ができなかった場合、個人情報保護法との関係では、デュー・ディリジェンスの深度も「事業の承継」に該当するM&Aにかかるデュー・ディリジェンスよりも浅くならざるを得ないということは意識しておく必要があろうかと思います。

 

来年になってしまうかもしれませんが・・・、次回は、適格機関投資家特例業務と犯収法の適用範囲について取り上げてみたいと思います。

 

[1] 法改正に伴い「個人情報」の定義も変更され、①氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)と、②個人識別符号が含まれるもの(一定のゲノムデータ、顔認証できるようにした顔の骨格等から抽出した特徴情報、パスポート番号等)が含まれます(法第2条第1項、個人情報保護法施行令第1条、個人情報保護法施行規則第2条乃至第4条)。

[2] 個人情報取扱事業者」とは、個人情報データベース等を事業の用に供している民間事業者を指します(法第2条第5項)。

[3] 個人情報データベース等(個人情報を含む情報の集合物であって、特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの等をいう。)を構成する個人情報を「個人データ」といいます(法2条第6項)。

[4] 金融分野や厚生労働分野においては、原則として書面による同意を取得するようガイドラインで規定されています。

[5] 第三者提供をそもそも個人情報の利用目的としている場合です。個人情報保護委員会への届出が必要という改正がなされた箇所ですね。なお、個人情報保護員会ウェブサイトをみると、本日現在119件の届出がなされています。

[6] 個人データ以外の機密情報についてはどうでしょうか?多くの場合重要な取引先の契約が承継先候補者に開示されると思われますが、取引先との契約には守秘義務条項があり、M&Aの場合に承継先(買主)に当該契約が開示されることなど想定した記載はないでしょう。法令又は契約上の例外規定はないので、承継先候補者と秘密保持契約を締結した上で、自己責任で開示することになるでしょう。

[7] 第三者割当増資により議決権の過半数を取得する場合を含みます。

[8] 顧客にグループ会社からの商品情報を送ったり、従業員のHR関連情報を共有するなど、共同利用はグループ会社間でとられることがありますが、この場合は、対象会社のもともとの利用目的の範囲でしか共同利用を行うことはできません。

[9] それ以外にも書類の真正性を確認したり、又は個人情報を削除するのが難しかったりする場合、個人情報が含まれた形で書面や情報が開示されることもあるでしょう。

株式会社アエリアによる株式会社トータルマネジメントの子会社化

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最近M&Aを繰り返していてちょっと話題の株式会社アエリア(「アエリア」)が、2017年9月26日付で、株式会社トータルマネジメント(「トータルマネジメント」)を子会社化すると適時開示を出していました(http://www.aeria.jp/pdf/urnQBz)。

今回の子会社化のスキームは、①アエリアが普通株式の発行済株式数の全てを保有し、あかつき証券株式会社(「あかつき証券」)が議決権のない優先株式保有するアエリアの子会社株式会社アエリア投資弐号(「取得用子会社」)が、トータルマネジメントの株主から現金を対価としてトータルマネジメントの全株式を一旦取得し、その後、②あかつき証券保有する取得用子会社の優先株式が取得用子会社の普通株式に転換[1]され、アエリアと取得用子会社で株式交換を行うことにより、あかつき証券保有する取得用子会社の普通株式を全部アエリアが取得することによってアエリアは、トータルマネジメントの完全子会社化を行うとのことです(トータルマネジメントは、アエリアの直接の子会社になるのではなく、取得用子会社を通じて孫会社という形になります。)。

アエリアからすれば、トータルマネジメント株の対価として、アエリア株を用いる形でキャッシュアウトを抑えて買収できることになります。他方、トータルマネジメントの株主からすれば現金化し利益を確定することができ、取得用子会社に優先株出資を行ったあかつき証券はアエリア株が値上がりすることによって利益を得ることを狙ったDealということになろうかと思います。

ちなみに、取得用子会社は、トータルマネジメント株を保有するためだけのビークルであり、取得用子会社の価値はトータルマネジメント株式のみから構成されており、その意味では、先月開示された前に本ブログでも書かせていただいた、株式会社エボラブルアジアによる株式会社まぐまぐの買収事例(http://yukis725.hatenadiary.jp/entry/2017/09/17/030302)や株式会社アクロディアによる株式会社エンターティンメントシステムズを完全子会社とする株式交換契約を締結した事例(http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1510905)に少し似たスキームという面がありますね。なお、取得用子会社の設立は今月5日で適時開示によれば「取得用子会社は、対象会社を取得するために設立された会社のため記載すべき経営成績及び財政状態はありません。」とのことです。

[1] 適時開示によれば、「本株式交換においては、当社は、本株式交換により当社が取得用子会社の発行済株式の全部を取得する時点の直前時(以下「基準時」という)に、取得用子会社 の株主名簿に記載された取得用子会社 の 株主(当社を除く)に対し、取得用子会社の優先株式に代わり、その所有する取得用子会社の普通株式の数に、以下の算式により算出される株式交換比率を乗じて得た数の当社の普通株式を割り当てます。」との記載があることから株式交換が行われる前に優先株式普通株式に転換されるものと考えられます。なお、適時開示には、「当社は、基準日における取得用子会社の株主の所有する取得用子会社の優先株式数の合計数に、 上記株式交換比率を乗じて得た数の当社の普通株式を交付します。当社は、本株式交換による 株式の交付に際し、新たに普通株式を発行する予定です。」との記載もあり、優先株式を直接取得するのではないかと思わせる記載もあり、スキームは少々不明確ではあります

株式会社エボラブルアジアによる株式会社まぐまぐの子会社化

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ちょっと話題の株式会社エボラブルアジア(「エボラブルアジア」)が、2017年9月12日付で、株式の取得及び簡易株式交換により株式会社まぐまぐ(「まぐまぐ」)を子会社化すると適時開示を出していました(http://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS99831/e13a1524/ba55/4914/9e12/930069709e62/140120170911471808.pdf?_ga=2.123944586.1815712226.1505317662-150090133.1505317662)。

エボラブルアジアは、①まぐまぐの85.7%の株式を保有するニューホライズン 2 号投資事業有限責任組合から65,574 株 (議決権の数:65,574 個)(議決権所有割合:59.6%)を相対で取得し、また、②まぐまぐの株式28,682株をニューホライズン 2 号投資事業有限責任組合から取得する予定の株式会社エヌ・エイチ・シー・フィフティーン(「NHC15」)との間で簡易株式交換を行うことにより、NHC15を通じてまぐまぐの株式 28,682 株を①に加えて保有するようです。

NHC15の親会社は、ニューホライズン 2 号投資事業有限責任組合を運用するニューホライズンキャピタル株式会社であり、「予定」とはいえ、確実にまぐまぐの株式をニューホライズン 2 号投資事業有限責任組合から取得できるものと思われます。なお、簡易株式交換の効力発生日までに、ニューホライズンキャピタル株式会社は、NHC15の全株式をニューホライズン 2 号投資事業有限責任組合に譲渡することから、簡易株式交換の結果、エボラブルアジア株を取得するのは、ニューホライズン 2 号投資事業有限責任組合ということになるようです。

エボラブルアジアからすれば、まぐまぐ株の対価として、現金+エボラブルアジア株という形でキャッシュアウトを少し抑えて買収した格好になります。他方、ニューホライズン 2 号投資事業有限責任組合からすれば、一部は現金化し利益を確定し、一部エボラブルアジア株の値上がりによる+αを狙ったDealということになろうかと思います。

ちなみに、NHC15は、まぐまぐ株を保有するためだけのビークルであり、NHC15の価値はまぐまぐ株式のみから構成されており、その意味では、先月開示された株式会社アクロディアによる株式会社エンターティンメントシステムズを完全子会社とする株式交換契約を締結した事例(http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1510905)に少し似たスキームという面がありますね。なお、NHC15の設立は昨年10月13日ですので、NHC15は本Dealのために設立されたものなのかその設立経緯は上記のエボラブルアジアの適時開示上は明らかではありません。

M&Aと女性の職業生活における活躍の推進に関する法律

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「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年4月1日法律第64号)(「活躍推進法」)が2016年4月1日から全面施行されています。今日は、この法律がM&Aに与え(てい)る影響について一言。

活躍推進法第8条第1項に基づき、常時雇用する労働者が300人を超える企業は、「一般事業主行動計画」を定め厚生労働大臣に届出をすることが義務づけられています[1]。また、「一般事業主行動計画」を変更する場合も、同様に厚生労働大臣に届け出なければなりません。そもそも、この義務が課せられている企業のうちどの程度の企業が遵守しているのかわかりませんがあくまで遵守されていることを前提に考えてみたいと思います。

M&A実行時においては、当該義務が履行されているのかどうかチェックすることも、法務Due Diligenceの対象となってくると思いますが、M&A後のいわゆるPost Merger Integration(PMI)においても影響があるように思います。以下、合併、事業譲渡・会社分割及び子会社の売却の場合に分けて検討します。

法務部門がアラートして人事部門で対応する、PMIのためのプロジェクトチームがハンドルする等各社によって異なりますが、まだ新しい手続きですので、漏れがないようにしていただければと思います。

合併の場合

例えば、常時雇用する労働者の数が300名未満のA社と、常時雇用する労働者の数が300名未満のB社が合併をする場合、両社の常時雇用する労働者の数が合併によって300名を超えるときは、合併により新たに「一般事業主行動計画」の届出義務が生じることになるので、合併が決まった後、当該義務を遵守すべく、A社とB社と共同で一般事業主行動計画を策定するためのプロジェクトチームを造ることが考えらえます。

他方、既に「一般事業主行動計画」を届け出ているA社が、B社と合併しA社が存続会社となる場合[2]、当該行動計画の前提となる「採用した労働者に占める女性労働者の割合、男女の継続勤務年数の差異、労働時間の状況、管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合その他のその事業における女性の職業生活における活躍に関する状況を把握し、女性の職業生活における活躍を推進するために改善すべき事情」(活躍推進法第8条第3項)が異なることから、届け出ている一般事業主行動計画を変更することが望ましいのではないでしょうか。また、仮に、B社も一般事業主行動計画を策定している場合は、事前に両行動計画をすり合わせておくことも考えられます。

事業譲渡・会社分割の場合

常時雇用する労働者の数が300名以上であり、既に「一般事業主行動計画」を届け出ているA社が、事業譲渡や会社分割により、常時雇用する労働者の数が減少した場合、「一般事業主行動計画」の前提が異なってくることにより行動計画の目標の達成の見込みがなくなることも考えられます。このようなときは、事業譲渡や会社分割後、一般事業主行動計画を変更することが必要となってくるものと思われます。他方、事業譲渡で事業を譲り受けた会社や吸収分割会社が、常時雇用する労働者の数が300名以上となった場合は、合併の場合と同様、一般事業主行動計画を新たに策定し届け出る必要が出てきます。

子会社の売却の場合

「一般事業主」とは、企業グループ全体ではなく、各法人ごとに考えるのが原則のようです(厚生労働省の「状況把握、情報公表、認定基準等における解釈事項について」[3]問33参照)。そのため、一般的には、子会社の売却によって、当該義務がただちに問題になることはありません。もっとも、問33によれば、「グループ内で雇用管理が一体的になされている場合[4]など一定の場合は、グループ全体としての実施=各事業主の実施と解することができる。」とされており、例えば、A社がこれに従い、子会社B社を含める形で一般事業主行動計画を定めている場合は、B社が売却されたときは、一般事業主行動計画の目標の達成の見込みがなくなることも考えられます。その場合は、一般事業主行動計画を変更することが必要となるでしょう。また、もしB社を譲り受けたC社がグループ全体として一般事業主行動計画を定めていた場合、こちらも当該一般事業主行動計画の前提が異なってくることから、行動計画の変更をすることが考えられます[5]

 

[1] 常時雇用する労働者が300人未満の場合であっても、同条第7項において一般事業主行動計画の届出が努力義務となっています。

[2] 他方、一般事業主行動計画が届出済の会社が合併消滅会社となる場合、どのような手続きが必要かは必ずしも法律上明確ではありません。

[3] http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/kaishakujikou_4.pdf

[4] 「グループ内の雇用管理が一体的になされている」とは、 採用から配置・育成、登用に至るまでをグループ全体で行っていることを意味すると状況把握、情報公表、認定基準等における解釈事項について問33で記載されている。

[5] 子会社譲渡により一般事業主行動計画の対象外となった労働者に関して対象外となったことにより何らかの不利益が生じた場合は、労働法制に従い不利益変更の妥当性が問題になることも考えられることから、一般事業主行動計画の対象外となった労働者に対してどのような対応をするのかはM&A検討時に検討しておく必要があるものと考えます。